313『黒太子と黒太子妃』
戦後処理のため自国から離れられなくなったクリスティアンを置いて、ジェラルディンは学院に戻ってきた。
すぐに憂い顔のオリヴェルが近寄ってくる。
本来薬学部で勉学しているジェラルディンとオリヴェルは普段はほとんど接触はない。
だが、もちろん多国籍軍の影の国への侵攻を知っていたオリヴェルはいても堪らずやって来たのだ。
「ジェラルディン様!
よくぞご無事で……」
「あら、オリヴェル、ご機嫌よう。
お元気でした?」
だが本人は至って普通で、まるでバカンスにでも行ってきたような様子だ。
「はい、私は……ではないでしょう?!
ジェラルディン様もクリスティアン様も大事はございませんでしたか?」
「私たちは完全な後衛職ですもの。
いつも通り、収納して終わりです」
朗らかな微笑みを浮かべるジェラルディン。
オリヴェルは、願わくばいつまでもその笑みを向けられる対象でいたいと思う。
「でも残念な事がありますの。
急に領土が広がったのでクリスティアン様がお戻りになってしまわれたのですわ」
彼はこの後、新たに影の国となった領地の責任者として赴任する事となった。
ジェラルディンとクリスティアンが婚約して早7年。
ようやく15歳の成人を迎えたクリスティアンはジェラルディンと華燭の典を迎える事ができた。
この数年、ジェラルディンは学院を卒業したのちクリスティアンの赴任地である旧ザラネアの地方の町で、念願?のスローライフを堪能していた。
だがもうそれも終わり、本日から彼女は、王太子妃となる。
「幼いころからずっと、ずっとあなたのことが好きでした。
こうして念願かなって、あなたを妻にできてとても私は幸せです」
「私はクリスティアン様よりずっと年上なのに?」
ジェラルディンの腰を抱いているクリスティアンの方が頭ひとつ分以上、背が高い。
「私たちの寿命は200年以上あるというのに、ほんの7〜8年なんて些細な事でしょう?」
艶やかさに、年相応の妖しさも兼ね備えた年上の妃に、クリスティアンはもうベロベロに惚れぬいている。
「どれほどこの日を夢見たことか……」
黒い瞳を潤ませて、腕の中のジェラルディンを抱き寄せる。
彼らはまだ結婚式が終わったばかりで今は王宮に戻って、バルコニーで行われる国民へのお披露目を前にしていた。
その後は盛大な披露宴となる。
「私はもう一刻も早くあなたとふたりきりになりたいです」




