300『アンデッド』
「生き残りがいたのか!?」
ある騎士がそう叫んだ。
彼らの視線の先には不自然な動きをした農民らしき男がいた。
だがその姿形がおかしい。
まず着衣が乱れボロボロで、あちこちが黒ずんで汚れている。
その足取りも普通ではない。
よく見ると片方の足首はあらぬ方向に曲がっていて、バッサリと斬られた肩から腕がぶら下がっていた。
「ひいぃ」
代官が悲鳴を上げた。
「あれは、アンデッド?!」
討伐などに慣れた隊長がその正体を言い放ち、我に返った騎士たちが剣を構える。
アンデッドは近づいてくるに従って勢いを増しているように見える。
その表情は生きているものすべてを呪っているような、そんな凄みさえ感じられた。
「あれはそんなに古くない。
おそらく今回盗賊に殺された村人だろう……
死人がどうしてアンデッドになるか解明されていないが、こう言うことはままあるんだ」
「私、アンデッドは初めて見ましたわ」
そんな中でもジェラルディンは冷静だった。
彼女はか弱い女性だ。本来なら悲鳴のひとつもあげそうなものだが、ジェラルディンは平気そうだ。
「あれはちょっと……アイテムボックスに収納したくありませんね。
なのでアレの討伐はお任せします」
「本来なら火で焼くのが一番良いのですが」
隊長がチラリと見たオリヴェルの得意魔法は【風】と【水】だ。
リカルドは【土】と【風】であり、2人とも火魔法は不得手だった。
「ジェラルディン様、アレはお持ちですか?」
ラドヤードが言っているのは、以前孤児院やらスラムやらを焼き尽くした焼夷手榴弾の事だ。
「ええ、持っているわ。
アレくらいなら試作品の……これね」
アイテムバッグから取り出したのはジェラルディンでも握れる大きさの陶器の壺だ。
それをラドヤードに渡した。
「では、いきます」
何の説明もなく、いきなり振りかぶったラドヤードがジェラルディンから受け取った壺をアンデッドに向けて投げつけた。
「ファイア」
アンデッドに向けて飛ぶ壺に向かって、ジェラルディンの生活魔法【ファイア】が放たれた。
一気に燃え上がった焼夷手榴弾はそのままアンデッドに当たり、そしてアンデッドを火ダルマにする。
その様子を見ていた一行は呆気にとられていた。
「ジェラルディン様、それは一体何なのですか?」
隊長は見たことのない武器?を使ったジェラルディンを凝視している。
「これは疫病に侵されたものを焼き払うために開発したものです。
中の薬剤が燃えやすく消えにくくなっているのです」
恐ろしい事を事も無げに言う。
隊長はこの無差別破壊兵器の性能と、これを創り出したジェラルディンに対して心底恐怖した。




