297『完治』
痛みを抑えるため強力な鎮痛剤を使用しているため、意識は朦朧としている。
そんなリカルドが、ふと意識を取り戻し、目だけを動かして周りを見回した。
「ぼくは……夢を見ていたのでしょうか」
目の前にはジェラルディンとオリヴェルの顔がある。
「リカルド、どう?痛みはない?」
「痛み……?どうしてそんな事を?」
リカルドを襲った過ぎた痛みは彼の記憶を曖昧にしたようだ。
ジェラルディンは執事に言ってリカルドの上体を起こしてもらった。
「もう傷はないわ。
リカルド、右手を動かしてみてくださる?
そう、握ったり開いたりして」
ジェラルディンの言う通りにしたリカルドだが、その意味がわからない。
「大丈夫ね。
あとは失った血を補うためたくさん食べて、静養しましょう」
「あの、ジェラルディン様、一体何を仰っているのかわかりません」
リカルドはようやく、自分がベッドにいる事に戸惑っていた。
「……怪我をした事を覚えていない?
とても酷い怪我だったのよ」
「ここは、家ですか?
僕、怪我をしたのですか……」
すぐに思い出せないのはしょうがない事なのだが、あまり良い状態ではない。
もし彼がまた同じような状況に陥ったとき、今回の記憶がフラッシュバックしてしまったら非常に拙い事になる。
「リカルド、お前は領地を襲った盗賊を討伐しに行った時、返り討ちにあったのだ」
事実を告げたのはオリヴェルだ。
その言葉、一言一言を噛みしめるように聞いたリカルドの様子が変わってきた。
まずは表情が抜け落ちた。そして発汗。
全身を震わせたリカルドは目を見開いて、あらぬところを見つめている。
「リカルド……」
「彼はこの試練を自分だけの力で乗り越えなければならないのです」
彼の家、ゴセック子爵家は軍閥ではないが、貴族として最低限の武勇は必要である。
そして彼はあのペスト事件のときに貴重な【結界魔法】の使い手となった。
それは例えば戦時には第一線にも立たなければならないわけで、なのでこのままでよいはずがない。
「腕が……僕の腕がっ」
「大丈夫よ。ほら、元通り動くでしょう?」
「動く……千切れかけていたのに、なんともない。なぜ?」
「バラデュール侯爵令嬢が貴重なポーションを使ってくださったの」
ジェラルディンたちの後ろで、ずっと様子を見ていた母親が前に出た。
「ジェラルディン様?
貴重なポーション……ああっ!」
彼はその価値に気づいたようだ。
その衝撃はあっさりとトラウマを追い越して新たに真っ青になった。
「どうやら思っていた以上に簡単にトラウマを克服したようだね。
ただ、新たなトラウマが出来上がってしまったかな」
オリヴェルの口許が緩んで、軽口が飛び出した。
これでおそらく、再び盗賊と対峙してもリカルドは取り乱す事なく対処できるだろう。




