295『フォロー』
みるみる間に震えが強まり、指先は強張り冷たくなっていく。
アイテムバッグから出した毛布で身体を包むと、経過観察をタリアに任せてジェラルディンは馬車から降り、魔導コンロを取り出した。
そしていくつかのハーブを取り出し、調薬して薬湯を作っていく。
熱々のそれを持って馬車に戻ると、オリヴェルは毛布に包まって馬車の隅で丸くなっていた。
「オリヴェル、これを飲めば楽になるわ。
さあ、こちらにいらっしゃい」
もう少し元気なら縄で縛った方がしゃんとしそうだが、今のこの状態は拙い。
おそらく頭の血が下がっている状態で、下手をすると命に関わる症状だ。
「さあ、少し眠りましょう」
今回の盗賊たちは生死を問わず、昼間通り過ぎてきた町で憲兵隊に引き渡す事になったようで、街道を引き返すことになった。
今夜は宿で泊まるようだ。
「鎮静作用のあるハーブを煎じてあるので、このまま休ませましょう。
あなた、看護をお願いできる?」
オリヴェルの従者に旅装を解くように言うと、ジェラルディンも宿の部屋に下がっていった。
アンシャーネン家の騎士団の面々は憲兵隊に盗賊たちを引き渡したり、消耗品を買い足したりと忙しい。
ちなみに盗賊退治の報償金は騎士団で均等に分けるように、オリヴェルに代わってジェラルディンが差配した。
「誠に以って面目ない」
薬湯の効果もあって、朝までぐっすりと眠ったオリヴェルは今、ジェラルディンの前で土下座せんばかりの様子だ。
「オリヴェル、これは大なり小なり誰もが通る道なのよ。
だから気にしなくていいの。
大事なのはこれからよ。
次に対峙した時に周りの足を引っ張るような事にならなければそれでいいの。
今夜でも一度、隊長さんと腹を割ってお話ししてみたら?」
ジェラルディンはさも普通の事だと言って、オリヴェルの矜恃を刺激しないようにした。
「その……ジェラルディン様のときはどうだったのですか?」
「私、ですか?
私は元々近距離戦闘はしないので、それほど忌避感は無かったですわね。
でも、最初は腰が引けて……いわゆる腰が抜けた状態になりましたわ」
それはまだ、ラドヤードと出会う前の話だ。
侯爵家から出奔する前も魔獣の討伐は経験あるが、さすがに平民と言えど同じ姿形をした連中を屠るのはやはりクるものがある。
「まあ、慣れ、よ。慣れ。
オリヴェルも本番前によい経験をした、くらいに思っておけばよいのよ」
昨今の貴族は、軍閥でもない限り当主やその近しい血筋のものが戦闘を経験する事は無いと言ってもよい。
戦争や盗賊などの討伐は、魔獣相手とはまったく違うのだ。




