288『終息?』
人口1500名ほどの工業都市で、現在把握されている罹患者及び死者は30名程度。
これはこの世界における師弟制度により、一工房における職人の数があまり多くなかったせいだ。
そして各工房は技術やデザインなどを盗まれないよう閉鎖的である。
それは工房の立地の面にも現れていて、彼らの工房や住居の周りには高い壁が張りめぐされたりしていた。
このことにより感染の速度が最低限まで落ち、その広がりも防がれていた。
「この特殊な事情を持つ工業都市なら、ひょっとすると殲滅作戦を取らなくて済むかもしれないわ」
ジェラルディンの考えで街壁の外に医療キャンプが作られた。
ここは各工房ごとに分けられ、10日間何もなければ王都に移されることになる。
今回は殲滅作戦をとらないことになったので、学院生たちは現場から外れて学び舎に戻ってきていた。
ジェラルディンはまだ一学年を終えていなかったが、特例での飛び級を許されて、薬学部のシルベスターン教授の元で主に調薬を学ぶことになった。
そして今最優先なのが貴族用のペスト薬の量産である。
だが、これにも問題があった。
原材料の素材である。
「素材の幾つかがこの近辺では入手出来ないのだ。
幸いほとんどのものは市場に流通しているが、ある素材は魔獣由来で数を揃えるのが非常に難しいのだ」
シルベスターンは、原材料のうちのひとつは、ある菌を培養しなくてはならないのだが、その培地として肝を使うのだと言った。
「肝……ですか?」
確か、今指定された魔獣、蛇系のバイパー属の生きの良い死骸は、スタンピードを起こしたダンジョンから大量に得ている。
これらは提供しても良いだろう。
「シルベスターン様、バイパー系の魔獣なら私、それなりの数を持っております。
そちらで解体、と言うか肝臓を取り出して下さるなら提供させていただきますが、いかがでしょう?」
「おお、本当かね?!」
喜び勇んだシルベスターンだが、ジェラルディンの異空間収納から出てくる数を見て、思わずストップをかけたのは当然のことだろう。
こうしてジェラルディンがクラスから離れて、一連のどさくさに紛れて気づくものがいなかったクラスメイトのことに関心を向けたのはオリヴェルだった。




