285『新たな火種』
王都には徒歩半日ほどの距離に、衛星都市ともいえる町がいくつかあった。
そのほとんどが農業を中心に行っていたが、中には鍛治職の職人が集まって出来た町もあった。
騒音や噴煙など、苦情の多い鍛治職や工芸品を作成する職人たちが多く住むその町は、衛星都市の中でも栄えていたのだが、得てして環境が劣悪なものになっていったようだ。
ある日、その工房の職人が2人、何の連絡もなく仕事を休んだ。
無断欠勤などした事もない2人に親方は訝しんだが、納期が迫っていたその工房の親方はそのまま2日間放置してしまった。
3日目、納品が済んで2人の元に向かった同僚が見たのは変わり果てた2人の姿だった。
「まさか!?
ほんの3〜4日前まで元気だったじゃないか!」
親方は驚愕のあまり取り乱している。
彼にはまったく思い当たるふしがないし、彼らの元気な姿しか思いあたらない。
だが親方よりももっと親しい職人仲間の中には、彼らが無断欠勤をする直前、身体が怠いなどと訴えていたのを憶えていた。
そして葬儀を終えたその夜、同じ工房の職人がひとり発熱して寝込んだのだ。
この工房の亡くなった2人、そして新たに発熱した1人がこの町の運命を決める存在となった。
ジェラルディンの報告を受けて、国は迅速に動いた。
スラムの切り捨ては早々に決まり、今はいかにして病気を川向こうに止めるか、検討中だった。
「やはり放火する前に下水道を含めて結界で覆うしかないでしょうが、問題はそれを行う魔法士です。
複数で行うとしても、それほどの魔力を持つ者は中々おりません」
高魔力イコール高位貴族である。
気位の高い彼らに協力を求めたところでどれほどの返事が返ってくるだろうか。
宰相は限られた時間の中、頭を悩ましていた。
「あなたたち、何事も経験だと思って頑張ってらっしゃい」
ジェラルディンの鶴の一言で、オリヴェルとリカルドが結界張りを担当する事になった。
そしてジェラルディン監督の元、結界魔法の特訓である。
これはオリヴェルはともかくリカルドにはかなり過酷なもので、ジェラルディン特製の魔力回復ポーションをガブ飲みし、涙と鼻水でぐしょぐしょになりながら訓練に明け暮れた。
その結果、彼の魔力総量が目に見えて上昇したのはその苦難に見合った成果であろう。
そしてこれでスラム殲滅作戦の準備は整ったと言える。
数日前からスラムから川を越えての出入りが禁止されて、武装した憲兵が下町側の川のほとりで監視していた。
彼らはおもにスラムへの立ち入りを禁止していたのだが、どこにでも漏れはあるものだろう。
だがスラム側からこちらへの越河は一切許されず、それを侵そうとした者は自らの命で贖ったのだ。




