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 278『婚約破棄の後』

 さすがにまずいと思ったのだろう。

 オリヴェルがリカルドと眼差しを交わし合い、リカルドがその場から離れていった。

 彼はその足で信頼のおける従者の元に行くのだろう。

 そして一刻ほどの間に、この情報は王城まで届くのだ。

 この婚約は隣国パレルとの政略だ。

 多分に政治的なものが含まれる、無碍にできないものだろう。


「オリヴェル、オストネフ皇国の皇太子様はお幾つなの?」


 ジェラルディンに対してはポンコツだが本来は出来る男のオリヴェルは、彼女が聞きたい事を瞬時に察し、明確な答えを返した。


「我が国の皇太子様は御年30歳で皇太子妃、第二妃、第三妃がおられます。

 第二皇子、第三皇子ともにお妃がいらっしゃいます。

 現在年頃の男子がいる、最も序列が高く、王族に準ずるのがオランデル公爵家なのです」


 なるほど、大公家の姫を正室以外にするわけにはいかなかったのだろう。

 近年隣国パレルとは軍事協定を結んでおり、そのために王の姪にあたるエヴァンジェリンとの政略結婚が必須だったのだ。

 これはどう見ても一公爵子息が色恋絡みで破棄して良いものではない。

 非常に高度な政治的問題なのだ。


「オランデル公爵家に、他に男子は?」


「かの家には同腹の弟君が2人、確かまだ10才前後だったと。

 側室腹にはドナシアンよりひとつ年上の兄君とふたつ下の弟君がいらっしゃいます」


「そうなのね。

 すげ替えがきくのなら、政治的情勢は変わらないでしょう」


 ジェラルディンにとってもせっかく入学した学院である。

 できれば無事卒業するまでは平穏にいたいのだ。


「きっともう、今日はこの後の授業どころではないでしょう。

 タリア、一度部屋に戻ります」


 ジェラルディンの祖国、影の国では他国との政略結婚を嫌っていて、辺境の国境を接している貴族家以外、他国の貴族の血を入れることはない。

 その事をジェラルディンは重々に感謝した。



 その日のうちに、オランデル公爵家からやってきた家人たちにドナシアンは軟禁され、マデリンは連れ去られた。

 彼女はもう2度と学院に戻ってくることはないだろう。

 それどころか2度と姿を見ることがないかもしれない。


「正室腹の男子が幼いので側室腹の兄君が後継になられるかもしれないわね。

 そしてそれは派閥内の順位が変化する可能性もあるということ。

 ドナシアン様も罪深い事をなさったわね」



 3日後、ドナシアンとマデリンの退学が発表され、エヴァンジェリンは一度帰国することになった。

 学籍は残るので新たな方針が決まれば戻ってくることもあり得るのだろう。


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