277『一方的な婚約破棄』
それは午前の授業が終わり、ほとんどの生徒が食堂にいた時のことだった。
その日、ジェラルディンは忠犬?であるオリヴェル、そしてリカルドと共に食堂の外のテラスで昼食を摂っていた。
そこでも貴族の序列、派閥、そして平民とくっきりとグループ分けが行われていて、それなりに賑やかに食事が行われていた。
だが本来ならそこにいるはずの序列筆頭ドナシアン・オランデルの姿が見えない。
いつも一緒のはずのエヴァンジェリンも所在なげだ。
そして、もうひとり姿が見えない、件の男爵令嬢マデリン・バウスコールと一緒に食堂に入ってきたドナシアンはゆったりとエヴァンジェリンに近づいていった。
「ドナシアン様?」
「やあ、エヴァンジェリン」
「どうなさったのですか?
その方はどなたですの?」
ドナシアンは怯える(ふりをした)マデリンの腰を抱いて引き寄せた。
「エヴァンジェリン、私は君との婚約を破棄することにした」
淡々と告げるドナシアン。
一瞬、エヴァンジェリンとの間に火花が散った気がした。
「そうですの。
それは公爵様や皇王様の許可を得ている、ということですのよね?」
ドナシアンの目が泳ぎ、返事はない。
ということはそういうことなのだろう。愚かなことだ。
「貴方様は公人ですのよ?
ご自分の気持ちは二の次ということを理解しておられないのかしら?
貴方のなさったことは我が国への宣戦布告も同じですわ」
「あの!」
そこに空気を読もうとしないマデリンが口を挟んだ。
「結婚は本人同士の意思が大切だと思います。
望まない結婚なんてドナシアンがかわいそうです!」
この女は何を言っているのだろう。
その場にいた貴族全員がそう思っただろう。
平民の生徒たちはその場の不穏な空気に不安そうにしている。
「私、貴方の婚約者という立場にしがみつこうとは思っておりませんわよ。
でも、通すべき筋は通して頂かないと」
にっこりと笑んだエヴァンジェリンの笑顔に、ドナシアンは背中に冷たいものが流れるのを感じた。
「まあ、どこの国にもいるのね。
愚者と馬鹿は」
テラス席でタリアの淹れた紅茶を飲みながら、ジェラルディンは冷めた目でことの成り行きを見つめている。
そこでジェラルディンはふと思い出した。
「それはそうと、アルバート様はどうなさっているのかしら。
少しも噂を聞かないのですが」
「御母君のご実家がお持ちだった爵位を得て子爵家を興されたとお聞きしましたが、すぐに出奔されてそのままだと」
「そう……」
ジェラルディンとの接触は、あのスタンピードの時以来だ。
彼との因縁は未だ続いていて、その処遇はジェラルディンに一任されている。
「ジェラルディン様、そのアルバートという方は……」
オリヴェルには何となく答えが分かっているような気がしていた。
「影の国の元皇太子で、私の元婚約者ですわ。
あの方の一方的な婚約破棄の後廃嫡されて王家から追放されたそうですのよ。
まあ、まともな国ならそうなるでしょうね」
ジェラルディンの目は、食堂で皆の注目の的になっている男女に向けられている。




