271『再会は迷惑』
いきなり近づいてきて抱きつこうとした男に、影の中から現れた黒い触手状のものが絡みついた。
「うわぁ……あん?」
それでもジェラルディンに触れようとするので、彼女は締めつける力を強め、別の触手で鞭打った。
「きゃうん」
何だか見た目にそぐわない悲鳴である。
ジェラルディンはもう関わり合いになりたくないので早くこの場から立ち去りたい。
なので異空間収納から縄を取り出し、男を縛り始めた。
「あ……」
何故か大人しく縛られている男は、全身を上気させ、目を潤ませている。
そして心なしか呼吸も荒く、ジェラルディンの手が縄を締めるたびに悩ましげな息を吐いていた。
「さあ、これでいいわ」
個性的な縛り方は所々に固結びの玉があって、男の身体に食い込むようになっている。
さらにただグルグルと巻いているのではなく、編まれたようになっている場所もある。
「主人様、ずいぶんと個性的な捕縛法ですね」
ラドヤードは男の異常に気づいていて、早くこの場から主人を引き離したくてたまらない。
「そうなの。
以前読んだ書物に載っていたもののうちのひとつなのだけど、これは身分の高い人物を捕縛するための技術なのよ。
私、一度してみたかったの」
試さないで欲しい。
その後、縄に縛られた男を階段に放置して、ジェラルディンはラドヤードと共に部屋に戻るのだが、この件はこれで終わりというわけにはいかなかった。
「貴族が相手のトラブルというのは些か複雑ですよ。
しばらくの間、身辺に気をつけましょう」
「ええ、そうしましょう」
ジェラルディンは、最後に見た男の様子に言い知れぬ嫌悪感を感じていた。
そしてそれはさらなる発展を遂げて、ジェラルディンの前に現れた。
「姫君!姫君、お待ち下さい」
あの暴れん坊は、オストネフ皇国の貴族、アンシャーネン侯爵家の3男オリヴェルと名乗り、先日の無礼を床につきそうなくらい頭を下げて謝った。
あの日はどうやら早い時間から飲酒していたようで、強かに酔っ払っていたようだ。
そしてレストランで暴れて……あとはご存知の通りだ。
相手に名乗られたので、嫌々ながらジェラルディンも名乗る事になる。
「影の国から参りました、バラデュール侯爵家のジェラルディンと申します」
「おお、姫君。
どうかこの私めを、姫君の騎士にお加え下さい。
そしてあの縛をまた私に」
「えっ?」
「あのあと家のものに、何とか同じように結ぶよう命令してやってみたのですがどうしても再現できないのです!
もう……あの悦びを知ってしまった今は、知らなかった以前に戻れません。
どうか姫君、私めを貴方様の僕として仕えることをお許しください」
暴れん坊改め、オリヴェルは立派な変態と化してしまった。




