256『嵐、近づく……?』
この際だからとジェラルディンはポーション作りを延長して、量産に勤しんでいた。
それは、王都の薬種ギルドから納入されてくる薬草の品質があまりにも上質だったので、つい興が乗ってしまったことによる。
その間ラドヤードはジェラルディンの許可の元、近隣の町への護衛依頼なども受けて自由に過ごしていた。
ジェラルディンが侯爵邸に戻って10日が経った。
途中カイユレ氏との伝手を得るという幸運に恵まれ、調合の合間には久しぶりに王と会うことも出来た。
ジェラルディンが侯爵邸にいると聞きつけたクリスティアンの突撃も受け、楽しい時を過ごしていた。
そしてもっと頻繁に帰宅するよう約束させられて、アルべモフに戻ってきたのだ。
「ラド!元気にしていた?!」
「はい、主人様もお元気そうで何よりです」
「そうね、色々あったわ。
これから向かう王都での生活の礎もいくつか確保出来たの」
そう言って微笑む主人は美しかった。
もちろん常日頃から彼女は美しい。
この2年で少女から大人の女性への階段を登り始めたジェラルディンは、侯爵邸で磨かれることによって匂うような美しさに満ち溢れている。
新調された冬の普段着も彼女を引き立てていた。
「ラドはどうだったの?
護衛依頼は面白かった?」
「はい、概ね満足のいく依頼でした」
この時チラリと浮かんだ不快な様子を、ジェラルディンは無理に聞き出すことはしない。そのまま流していた。
「もう依頼完了の報告は終わったの?」
「はい、集団での任務ですので。
先ほど別れてきました」
打ち上げの飲み会にしつこく誘われて、主人の帰還を理由に帰ってきたラドヤードはゲンナリしていた。
彼は自分が思っていたよりもずいぶんとこの主人に依存していたのだと改めて感じている。
「ではそろそろ王都に向かうことにしましょうか。
明日はまず各ギルドに行って納品、そして商業ギルドで乗り合い馬車の予約をしましょう。
ずいぶんと秋が深まってしまったけど、楽しみだわ」
王都サングリアまで馬車で約半月、15日間見ておけば問題ないだろう。
翌日、ジェラルディンの専属侍女であるタリアが十分に吟味して新調されたチュニックとレギンス、そして薄手のウールで作られた、アンブレラヨーク付きのローブを身につけて冒険者ギルドにやって来た。
そして予約されていたポーションを50本、1本金貨40枚での買い取りで合計金貨2000枚を得た。
「こんなに高価で引き取って下さってよかったのかしら」
思わず呟いたジェラルディンに、鑑定士の男はとんでもないといって目尻を吊り上げた。
「我々としてはもっとお願いしたいのです。
ルディン嬢が移動なさると仰るので泣く泣く諦めたのですよ」
眉根を寄せたジェラルディンは弱々しく微笑んだ。
「最終まで、できるだけ融通いたしますわ。
商業ギルド、薬種ギルドに卸したあとにまだ少し余裕があると思いますの」
「何と! それは助かります」
そんな遣り取りをしているジェラルディンに近づいてきた人物が、ラドヤードの制止にも関わらず肩に触れようとする。
「?」
気配を感じて振り向いたジェラルディンに、その女は憎々しげに言葉を吐いた。
「ラドヤードを解放してあげて!!」




