245『ジェラルディンの災難』
商業ギルドから出たジェラルディンたちは少し遅い目の昼食を摂るために宿に戻る道を歩いていた。
「解体待ちとはいえ、冒険者ギルドと商業ギルド、合わせてどのくらいの査定になるかしら?」
「どちらのギルドも特定の部位だけの依頼でしたからね、丸々一頭の値段がどのくらいになるか……
その気になればオークションという手もありますし」
どちらかと言えばぶらぶらとそぞろ歩く2人はすっかり町歩きを楽しんでいたが、そんなリラックスした気分を台無しにする出来事があった。
その時、決してジェラルディンは、道の端を歩いていたわけではない。
それなのにソレが近づいてきたのは最初からジェラルディンを目標にしていたからに間違いない。
馬車が通る道の中央を避けて、それでも十分な道幅がある歩道に、茫然と立って泣きじゃくる女の子がいた。
年の頃は5〜6才か。
すれ違う人々はその様子に気はとめるものの、それ以上は何をするでもなく通り過ぎていく。
ジェラルディンも無関心のまま通り過ぎようとしていた瞬間、突然女の子が突進してきた。
「お願い、お姉ちゃん。いっしょに……」
ジェラルディンにしがみつこうとした女の子との間にラドヤードが立ち塞がり、鞘ごと抜いた剣が振り抜かれて、女の子は5m以上も吹き飛ばされた。
さすがに他人に無関心な人々も立ち止まって様子を窺っている。
「誰か憲兵を呼んできて下さい」
おそらく肋骨が何本かイっているだろう女の子は、這うようにしてその場から離れようとしている。
それを見てもこの女の子がジェラルディンに近づいたのはよろしからぬ訳があるのは明白だ。
「あら、逃げるつもりかしら」
ジェラルディンの目がそちらに向いて次の瞬間、黒い棘が地中から少女の右手と左足の甲を貫き、勢い余った手首はあらぬ方向に曲がっている。
「ぎゃぁーッ、いたい、いたい、いたいっ!」
バタバタと暴れて逃れようとした女の子は泣きわめくしかない。
「貴族だ!」
誰かがそう叫んだ。
「貴族様に無礼を働いたんだ!」
遠巻きに眺めていた町人がその輪を狭めていく。
今にも私刑が始まりそうなその時、報せを受けてやってきた憲兵が町人たちを下げ、ジェラルディンに向き直った。
「被害はございませんでしたか?
ご令嬢」
「ええ、襲いかかられる寸前に私の護衛が退けてくれました。
逃げようとしたので捕まえてあります。
ところで被害とは?」
「あれはスリの一種で我々は【当たり屋】と呼んでいます。
今回の奴は迷子を装ってご令嬢の持ち物を奪おうとしていたのです」
不自然だった女の子の行動はそういうことだったのだ。




