220『ジェラルディン襲撃さる』
約束通りに文具屋にやってきたジェラルディンたちは、すまなそうに迎える老人と向き合った。
「お嬢さん、申し訳ないです。
昨夜遅くまで、伝手をたどってみたのですが、現在この町の雑貨屋で【萬年筆】を扱っているものはおりませんでした。
かの商人がどこから来てどこに向かったのか、これも調べてみましたがはっきりせず……
時間だけ取らせて、真に申し訳ないことです」
「そう、少しがっかりだけどしょうがないわね。
こちらこそ手間を取らせて悪かったわ」
この後ジェラルディンは、老人に古書などの在庫を聞き、またごっそりと買い込んだのだった。
商業ギルドの前でボドリヤールとばったり出会った。
「これはルディンさん、長々とお待たせして申し訳ないです」
「いえ、私にも用事があったので、こちらこそわがままを言ってしまって」
「こんなところで立ち話もなんですから、中に入りましょうか」
元々商業ギルドにやってきたジェラルディンだったので、頷いて中に入っていった。
この商業ギルドにも冒険者ギルドのように飲食のできる茶店のようなものがある。ジェラルディンとボドリヤールは、紅茶を頼みここに座った。
「今回は出だしから躓いて、次々とトラブルに見舞われる。
ただ馬車の不具合が早くに見つかったことだけは僥倖だったと言わざるを得ませんよ」
半ば愚痴るような言い方で、ジェラルディンに話しかけてくるボドリヤールには、くっきりとクマが出来ている。
「それで、馬車の修理はどうなってますか?
いつ頃出発できそうです?」
「明日、午後には出発できそうですが、行程が中途半端になりそうなので明後日の朝一を予定しています」
「それなら私も同行できます」
ようやく旅を再開できそうだ。
ジェラルディンには馬車の旅を楽しむ余裕も出てきていた。
今日はスペランサの町を出発して5日目。ずっと野営が続いており、次に宿屋に泊まれるのは明後日となる。
ジェラルディンは箱馬車の中でずっと読書や小型の枠を使ったレース編みを行なっていた。
「……あら?」
緩めにかけてあった【探査】に反応があった。同時に御者台でラドヤードが身動いだことに気づく。
「襲撃?!」
次の瞬間、急に馬車が揺れ続いて傾いだ。
ドゥワームの叫び声が聞こえて、そのまま馬車が横倒しになっていく。
「ーーっ!!」
そのまま馬車はしばらく引きずられ、やっと止まった時、ジェラルディンは90度回転した馬車の中で呆然としていた。
「主人様っ!」
座席から投げ出されて座り込むジェラルディンの頭の上から、ドアを開けてラドヤードが叫ぶ。
見上げたジェラルディンを素早く引っ張りあげると、すぐに馬車の陰に隠れた。
「な、何事?」
「敵襲です、主人様。
おそらく、旅立ちの時からずっと感じていた例の奴らだと思います」
「なんてこと……」
その時ジェラルディンは、自分が何かを握りしめていることに気づいた。
それは木枠の破片で白い糸片が残っている。
「許さないーっ!!」
ジェラルディンが丹精込めて編んでいたレース編み。
それを、間接的にでも破壊した者たちは……




