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212『ジェラルディンの価値観』

 まさか現金でポンと出されるとは思わなかった老人は覚悟を決めた。

 見たところ目の前の少女は富裕層……おそらく貴族であろう。

 これ以上逆らわない方がよいと思った老人は販売することを認め、天鵞絨張りの箱を差し出した。


「どうぞ、お改めを」


「先ほどの萬年筆と同じ製造元なのでしょう?

 信用しているわ」


 それでも老人は試し書きの紙とインク、そしてピペットを用意している。

 ジェラルディンは自分のものとなった萬年筆を箱から取り出し、しみじみと見つめた。


「高価なはずよ。

 このペン先、アダマンタイトとミスリルの合金だわ。

 こんな事が出来るのね……」


 ジェラルディンが感動している。

 老人に促されるまで魅入られたように見続けていたジェラルディンは、慣れた手つきでピペットを扱いインクを入れると、紙にペン先を滑らせた。


「素晴らしい書き心地ですわ。

 うふふ、この萬年筆のためなら金貨1000枚、少しも惜しくはありません」


 嗤うジェラルディンの目が怖い。

 老人はこの少女に、早々にお引き取り頂きたいのだが、まったくそんな素振りを見せない。

 それどころか……


「ねえ、ご店主。

 私、もっとこの【萬年筆】が欲しいわ。

 こちらにもう在庫がないのなら、他に持っているお店をご存知ないかしら?」


 などと、恐ろしい事を言ってくる。


「いつ頃、どんな方が持ち込んだのかは知らないけれど、僅か2本と言うことはないと思うのよ。

 こちらの他にどなたかに売ったという話はお聞きにならなかったかしら?」


 店主は居心地悪そうだ。


「先ほども言ったように、もううちにはありません。

 この萬年筆は今から10年ほど前に、旅の商人から買い取ったものなのです。

 あの時、確かに他にも持っていましたが、うちの後にどこに行ったのかは……数日待っていただけるのなら、同業者に聞いてみますが」


「ぜひ、お願いします!!」


 ギラギラとした眼差しで見つめてくる美少女。何故か怖い。


「では、これから連絡を取ってみます」


 ウロウロと視線をさまよわせる老人の言いたい事がわかったのだろう。

 ラドヤードがジェラルディンの肩に、そっと手を置いた。


「主人様、そろそろ次の店に参りましょう。

 この後、ギルドにも向かわれるのでしょう?」


「あら、そうだったわね。

 ご店主、次はいつ来ればよろしいかしら?」


「明後日の昼には集められるだけの情報とお待ちしています。

 だがもしも何の情報も得られなかった場合、早くにお知らせするかもしれません。

 その場合はどこにお報せすれば?」


 ジェラルディンは泊まっている宿屋の名を告げ、大事そうに萬年筆を異空間収納に収めると、店を後にした。



「主人様、こんな約束をしてどうするのですか?

 隊商は明朝出発の予定ですよ」


「そんなの後で追いかければいいわ。

 私にとっては萬年筆の方が大事なの。

 文句を言われるようならキャンセルしてもいいの」


 ジェラルディンにとって金貨120枚程度、端金だ。


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