210『スペランサに到着』
男女の抱擁をバッチリ見てしまったジェラルディンは、翌朝は魂が抜けたようになっていたが、夜になる頃には元気を取り戻していた。
どうやら馬車の中に閉じこもっているように見せかけて侯爵邸に転移していたようで、料理長手製の料理も持ち帰ってきたようだ。
それをラドヤードとドゥワームにふんだんに与え、自分の呆けていた間の出来事を聞く。
ちなみに第三班は合流したが、隊商はまだ移動出来ずにいた。
「明日の朝にはスケジュール通りに出発出来るはずです。
これでやっと、3日遅れですが行程に戻れます」
ドゥワームは濃厚なビーフ(ミノタウロス)シチューを堪能して嬉しそうだ。
実は今日はジェラルディンの朝食と昼食にありつけなくて落胆していたのだ。
「そう……
とりあえず、野営はいつまで続くのかしら?」
「あと2晩野営地で過ごしてもらえばサニサ村という、割と大きな村での宿泊になります。
その後野営4泊ののち、スペランサという城塞都市に入る事になります。
ここではひょっとすると2泊になるかもしれません」
ジェラルディンはまったく知らなかったのだが、これほどの大規模隊商となると、全馬車が同じ目的地ではないそうだ。
スペランサでは早くも隊商から外れる馬車がいて、代わりに合流してくる馬車もある。
それをすべて統括しているボドリヤールは、商人としてだけでなくリーダーとしても優れていると言って良い。
「ラド、負担をかけるけどサルサ村まで見張りをお願いするわ。
それとスペランサで休息が取れたらいいのだけど」
「主人様、俺は大丈夫です。
それよりも主人様が心配ですよ」
ジェラルディンの白い肌にくっきりと浮き上がったクマは、昨夜眠れなかったせいだ。
それを笑ってごまかそうとする主人に不満を感じながら、ラドヤードはその場を流した。
旅が始まってまだ僅かしか経っていないが、このままで保つのだろうかと心配になる。
予定通り7日経ちその夕刻、ついにスペランサに到着した一行は、大したトラブルもなく町に入ることができた。
そして各自割り当てられた宿に向かい、ジェラルディンとラドヤードもやっと落ち着くことができた。
「あの、僕はこれから父と合流してこれからの事を聞いてきます。
遅くなっても一報は入れますので、よろしくお願いします」
ドゥワームはジェラルディンたちの部屋を確かめてから駆け出していった。
「今のところは2泊の予定なのね?」
苛立つジェラルディンは言葉尻も荒くなる。
昨夜、ジェラルディンが侯爵邸に転移したのちやってきたドゥワームからそう聞かされ、今朝戻ってきたジェラルディンにそう伝えたところ、そうなった。
「主人様、俺の勘だともう少し延びそうな気がする。
もうこうなったらどっしり構えるしかないですよ」
「そうねぇ……
今日はこれから町に繰り出して、パッと散財しようかしら」
女子らしい発散の仕方に、ラドヤードは僅かに口角をあげた。




