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209『待つ』

「おはようございます」


 ジェラルディンは未だに続けられている馬車の解体を尻目に、ドゥワームの父ボドリヤールの元にやってきていた。


「おや、ルディン様。どうなされました?」


「お忙しいなか恐縮ですが、朝食を共にと思って参りました」


 その場にいた十数人の男たちから喉を鳴らす音が聞こえてくる。

 実は彼らは昨夜も食事をしていない。


「このように過酷な旅では身体が資本。無理をなさってはいけませんわ。

 どうぞ、遠慮なく召し上がって」


 ジェラルディンの後ろにいたラドヤードが大鍋を、ドゥワームは大きな籠を抱えている。


「急なので大したものではないですが、お腹いっぱいにはなると思います。

 スープを入れるカップとカトラリーを

 用意して下さい」


 熱々の具沢山トマトスープと素揚げしたミートボール、焼きたてのロールパン、りんごが供された。


「ルディン様、いただきます」



「お食事中申し訳ないのですが、現在の状況とこれからの予定を教えていただきたい」


 少女にしか見えないジェラルディンだが、やはり貴族である。

 突然の食事の提供に、純粋な好意だけではないとボドリヤールは思ったが、案の定である。


「状況は……ご存知の通り、あまり良くありません。

 明日には第三班も合流して、再び隊商全体で行動する予定なのですが、思ったより馬車の解体に手間取り、いつこの場から出発出来るかわからない状況です。

 それに盗賊団も殲滅出来たわけではないですし」


 朝一に、この先の野営地に向かって早馬が発った。

 隊商がこのまま動く事が出来ない場合、こちらに向かってくる馬車を止めるためだ。


「旅は始まったばかりだと言うのに、困ったものね」


「これほど続くのも珍しいです。

 父からも聞いたことがありません」


 自分たちの馬車に戻って来た3人が、お互いの思いを口にしていた。


「良くない予感がします。

 やはり内通者がいるのでは?」


 ラドヤードが声をひそめて問いかけてくる。


「そうね……不審な動きをするものがいないか気をつけておくわ」


 この隊商に内通者がいるのならば、今宵あたり動きそうだ。



 今夜も野営の馬車の中。

 殆どのものが寝静まる真夜中に、暗闇の中ジェラルディンはまんじりともせず空中を見つめていた。


「そう……ようやく動き出したのね」


 立ち上がるでもなく、スッと姿を消したジェラルディンは、影の世界の住人となり不審な動きをする冒険者を追っていった。


「さて、一体どのような対象と接触するのかしら……

 予想通り盗賊だったら、後をつけていってアジトを襲ってもいいわね」


 見た目はそれなりの装備を身につけた冒険者が、音を立てないよう配慮した動きで森の中を進んでいく。

 そしてジェラルディンは彼にぴったりと付いて後を追った。

 まだ接触してくるものの姿は見えない。ジェラルディンの探査では少し離れたところに反応があるがこちらには向かっていないようだ。

 だが新たに彼を追ってくる反応があって、ジェラルディンは警戒を高めた。


「オーディン」


 追いついた女がジェラルディンの追っていた冒険者の名を呼ぶ。


「マヌーサ」


「あら?」


 最初は2人ともが内通者だと思ったのだが、何かおかしい。

 彼らは無言で近づき、そのまま抱き合ったのだ。


「あら、あらら?」


 赤面したジェラルディンは【転移】を使って一瞬で馬車に戻ることになった。

 生まれて初めて出歯亀をすることになってしまったジェラルディンはあまりの羞恥に悶えることになった。


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