208『トラブル・トラブル』
その報せは突然やって来た。
ジェラルディンたちのいる第二班が、今夜の野営地である、本来は休憩地の空き地を目指している中、進行方向から凄い勢いで早馬が駆けてきた。
それには先を行く第一班にいるはずの冒険者が乗っている。
「報告!!
第一班は今から2刻ほど前に盗賊団に襲われた。
今は撃退したが怪我人が出ている。
積荷に被害はないが、馬車が損傷している、その数3台。
第一班はこのまま第二班が到着するのを待つそうです」
実はこれは悪手だ。
本当は目標にならないように移動して撹乱するべきなのだが、第一班のリーダーは動けなくなった馬車の積荷を優先したようだ。
「これが私たちをおびき寄せて、一気に襲撃することを狙っているのではないと良いのですが……」
ジェラルディンが緊張している。
そしてその傍らのラドヤードは先ほど出発してきた村、もしくは隊商の中に内通者がいるのではないかと訝しんでいた。
10台以上の馬車が全速力で駆ける様は壮観である。
だが、中に乗っているもの……特にジェラルディンは堪らない。
一時本気で影空間に避難しようと思ったが、ドゥワームが頻繁に小窓を覗いてくるので止めることにした。
「振動が酷くてお尻が痛いわ。
それに読書だってできないじゃないの」
ジェラルディンは苛立ちを隠せない。
「しょうがないですよ、主人様。
予定以上の距離を走るのです。
……でも、俺が思うに、この先辛いことになりそうですよ」
そう言ってラドヤードが馬の消耗をあげた。
「……無事、合流できることを祈りましょう」
そしてジェラルディンは密かにポーションを飲んで、痛みを治療した。
「僕はもちろん初めてですし、こんな事聞いたこともありません」
ドゥワームが戸惑う気持ちもわかる。
現在、第一班と合流したジェラルディンたちは、街道を完全に封鎖してその場で野営をすることになったのだ。
「こんなことをして大丈夫なの?」
「もちろんダメですよ。
でも、仕方ないでしょう」
ラドヤードの手を借りて馬車から降りたジェラルディンは、薄暗い中あたりを見回した。
限界まで詰めて停められている馬車と、息荒く体から湯気のあがっている馬たち。
そしてあちらこちらであがる怒号は焦りを表していた。
「今夜はゲルを出せなさそうですね」
そんな場所はない。
「申し訳ないですが、主人様は馬車でお休みになって下さい。
俺とドゥワームは見張りをします」
「わかりました。
でも夕食は馬車の中で3人で食べましょう」
小型の箱馬車と言えど3人が座る事は出来る。
だが食器を出すテーブルがないので、ワンプレートの食事となった。
「初夏だけど夜は冷えるから、具沢山のスープにするわ」
大きくカットされたベーコンに蕪やジャガイモなどの根菜。
腹持ちのよいようにマカロニが入っている、ミルク味のスープだ。
それに焼きたてのロールパンを添えて今夜の夕食となる。
ドゥワームの父であり隊商のリーダーのボドリヤールは、壊れた馬車の荷を分散させて他の馬車に積み、馬車自体は分解して運ぶ事にした。
そのための作業が徹夜で続けられていた。




