204『隊商、出発』
「ボドリヤールさん、おはようございます」
「これはルディンさん、お早いですね」
ていねいに礼をしてくるボドリヤールに挨拶を返し、ジェラルディンは金魚の糞のようについてくる2人に視線を移した。
「ああ……伺ってますよ。
あの辺りなら多少場所があるでしょう。どうぞ先に商談を済ませて下さい」
ボドリヤールの好意で、無事彼らを追い払うことが出来た。
そのボドリヤールとの集合場所である広場には37台の馬車が停められ、その間を商会関係者や荷の持ち主、それと護衛の冒険者がひしめき合っている。
「はい、皆さん、注目して下さい!」
ボドリヤールが一段高いところから叫ぶと、それまで煩いくらい賑やかなだった周りが静かになり、すべての視線がその声の主に向いた。
「そろそろ時間です。
積荷の点検は終わりましたか?
皆、馬車に乗り込んで下さい」
ボドリヤールの話が終わるのを待っていたジェラルディンは、彼に連れられて箱馬車が固まって停められている場所に向かった。
「色々考えたのですがルディンさんはお客様ですし、こちらの馬車でお願いします」
それは周りに比べると、ひと回り小さな箱馬車だった。
そして御者も若い。
その御者はジェラルディンたちが近づくと帽子を取って礼をした。
「ルディンさん、これは私の三男でドゥワームと言います。
礼儀はちゃんと仕込んでありますので安心して下さい。
そして何かご用がお有りなら、これに言いつけて下さい」
「ドゥワームです。
よろしくお願いします、お嬢様」
「こちらこそよろしく。
私はルディン、護衛の彼はラドヤードと言います」
「では、どうぞお乗り下さい」
手慣れた様子で足置きを下ろすと、手を差し出した。
ジェラルディンは頷いてその手を取り、馬車に乗り込んでいく。
父親であるボドリヤールとラドヤードが見つめる中、しっかりと扉を閉めて御者台に向かった。
ラドヤードも共に御者台に収まり、あとは出発を待つばかりだ。
馬車37台とその乗員90名、そして護衛の冒険者の総数は100名を越えている。かなり大規模な隊商なのは確実であろう。
「ではお嬢様、出発します」
御者台の後ろの小窓から声をかけて、馬車が動き出した。
次々と中央門を通って街道に出て行く馬車の周りを、馬に乗った冒険者が護衛している。
ジェラルディンは念のためにゆるく探査を広げておいた。
「これだけの大所帯なので、野営地も休憩する場所も限られているんです」
ドゥワームは饒舌にラドヤードに話しかけた。
「申し訳ないですが、今日の昼食は馬車の上ですね。
そのかわり、野営地に入るのは夕刻よりも少し早いと思います」
これほど大規模な隊商の場合、野営地では基本的に馬車単位で行動する。
今回、ドゥワームの馬車ではジェラルディンとラドヤードを加えた3人、もしくは父親の馬車とともにいることになる。
なので馬車の順番も隊商のリーダーである父親の馬車の後ろを走っていた。
「しかし凄く大規模な隊商だな。
俺も何度も隊商の護衛をしたが、これほどのものは見たことがない」
「今回は特別ですよ。
実はこれは普段の隊商の2回分なのです。
前回の隊商が日延べになってしまったので今回は多いのです」
順延となった理由は天候なのか、それ以外なのか。
もし盗賊団などが絡んでいるのなら、その経過も知りたい。
「なあ、その日延べになった理由は?」
「僕は詳しく知りませんが、当時雨が続いていて、川の水位が上昇しているとは聞いていました」
「川か……」
それはそれで思うところがある。




