200『野営地の夜』
「今夜は街道沿いの野営地で野営します。
ルディン様には少し不快かもしれませんが一泊だけなので、どうかご了承ください」
「大丈夫ですよ、アルマンさん。
私たち、野営には慣れてますので」
御者席の後ろから顔を出したジェラルディンとアルマンが話している。
その横ではラドヤードが、アルマンと入れ替わりに昼食のサンドイッチを頬張っていた。
「あの、僕にまですみません」
アルマンは手渡されたカップを片手で持ち、熱い紅茶でひと息つく。
「私たちはいつものことよ。
夕食も楽しみにしていて」
それからジェラルディンはアルマンと話を続けた。それは主にアルマンのことで、この若さで幌馬車稼業を始めたきっかけのようなものを聞き出していた。
「そう、アルマンさんのお家は、元々商家だったの」
「はい、父親があのような事にならなければ、今も商家を続けられていたと思います」
それはよくある話だった。
彼の父親は大きな取り引きの為、充分な護衛を雇い旅立ったのだが、不幸にもA級の魔獣に遭遇して全滅。
馬車の荷も通りかかった者たちに荒らされ、まったく回収出来なかったのだと言う。
あとはお定まりの転落だった。
世間知らずの母親を抱え、アルマンは後始末をして店を畳んだ。
そのあと残った財産を処分して、この幌馬車を手に入れたのだ。
「もうすぐ野営地です。
予定より早く着くようですね」
馬を早く休ませる事が出来て、アルマンはホッとしているようだ。
野営地は、まだ時間が早いこともあり、一番乗りであった。
ここには井戸もあるが、混ぜものがあるのを忌避して普通の場合、馬車は水を持参している。
アルマンは一度馬車を降り、近くの森を窺って森の近くに馬車を止めた。
「ここならそれなりに安全だと思います。
焚き火の跡も新しいですし」
横でラドヤードが頷いている。
アルマンは若いのに経験はあるようだ。
まずは焚き火の跡に薪が置かれ火がつけられる。
その位置を確かめてからラドヤードがゲルを出した。
「うひゃ〜 何ですか、それは?」
初めて見るゲルに、アルマンがびっくりしている。
「これはゲルと言って、移動用の簡易住居のようなものだ。
主人様は野営の時これで休まれるのだ」
アルマンは興味津々ながら、馬の世話に手を動かしている。
その間にジェラルディンは夕食の準備を始めた。
携帯用簡易コンロを出して鍋を置く。
玉ねぎをザク切りにして油で炒め、湯を足した。そして蕪や人参、じゃがいもを入れ、その中に大き目に切ったベーコンを入れた。
「ラド、パスタはどうする?」
「俺は、できれば欲しいです」
「わかったわ」
マカロニやフジッリを目分量で入れて、塩胡椒をしあとは煮込むだけ。
牛乳を入れてクリームスープにしても美味しいが、今夜はこのままにする。
次にメインの肉料理はコカトリスの唐揚げだ。
これは定期的に侯爵家の厨房で作られて、補給されている。
あとはいつものポテトサラダやアボカドのサラダだ。
ラドヤードはポテトサラダに釘付けだし、アルマンに至っては本当に食べて良いのかと何度も聞いてくる。
「うちはラドがたくさん食べるのよ。
だから遠慮なく召し上がって」




