196『それぞれの顛末』
宿泊している高級旅館を出たヨアキムは、ジェラルディンなら絶対に行かないような下町の、ある一軒の家に入っていった。
「で、どうなってる?」
木製の両開き窓は固く閉じられ、室内には一切の光も感じられない。
なのでヨアキムもその相手も、お互いの顔を確認することもできないだろう。
「作戦が完了しているのは旦那のところを入れて2ヶ所。
手こずっていると言うより、どちらかと言えば相手を弄んでいる、と言った方がよいでしょうか。
貴族ってのはいい性格してますね。
おっと、旦那も貴族だった。失礼、失礼」
男はある都市での無差別虐殺案件のことを皮肉っているのだが、ヨアキムは肩をすくめただけだった。
「まあ、そういうもんだ。貴族ってのはな」
処理後の見た目は地味だが、今回チームを組んだ影の国の王族たちも大概な性格をしている。
見た目、虫も殺さないような美少年と美少女。だが顔色ひとつ変えず、文字通り家ごと “ 消して ”しまった。
「じゃあ、旦那。
またひと回りしてくるんで、帰ったら連絡するよ」
「ああ、よろしく頼む」
闇の中にいた男の気配が消えて、ヨアキムも家から出た。
そして雑多な通りに消えていく。
泥だらけになった騎士服のまま馬を駆るアリスティン。
街道を、騎士団の本拠地である中央都市に向け、一心不乱に進んでいた。
「どうして、どうしてこんな事になったのだ?!」
トロール討伐は、騎士団としては普通の任務だった。
それが狂ったのは、トロールが普通の個体ではなかった事による。
討伐に手こずるうち、その攻撃をまともに食らったアリスティンは瀕死の状態で死を待つだけだった。
貴重なポーションで命を救われ、のちにその時の状況を聞くと、なんとこの町には魔法士がいて “ 彼女 ”がポーションを使ってくれたと言う事。
それを聞いて要らぬ色気を出したのが運の尽きだったのだろう。
うら若き魔法士を自らの家に取り込めないかと接触したことが、まさかこのような事になるとは。
「まさか、こんな田舎に貴族が3人も!!」
魔力を持たないアリスティンでも、黒髪の少年から溢れ出す大量の魔力に押し潰されそうになった。
彼にとってそのはじめての体験は、恐怖を植えつけるものだった。
「やっと解放されたんだ。
このまま実家のある中央都市へ。
うわああぁ」
突然馬が躓き、アリスティンの身体が前に投げ出される。
咄嗟に受け身をとったので、頭から落馬することはなかったのだが強かに身体を打ち付けた。
ゆっくりと立ち上がろうとした、その瞬間、何かに足をすくわれその場で転んでしまう。
「何だ? 一体何が?」
アリスティンの足首には蔓が巻きついており、同じものが地面から無数に生えてくる。
「うわあぁーー」
そのままアリスティンは引き摺られていった。




