194『想い』
「この数日、とても楽しかったですわ、クリスティアン様」
「僕も、姉様とご一緒出来て、これほど嬉しかった事はありません」
ジェラルディンとクリスティアン。
ふたりは向き合って手を握り、別れを惜しんでいる。
ワンダイクとポラッパでの【士族】の件は一応の決着を見て、あとは討ち漏らしがないか確認中である。
ただほかの地域では未だ殲滅は続いており、場所によっては派手な事になっているようだ。
だがこれでバルヒュット連合国の【士族】は滅びを迎える事になるだろう。
「では、僕は国に戻りますがあちらで会えることを楽しみにしています」
転移していくクリスティアンを見送り、ジェラルディンは肩を落とした。
「やはり私は寂しかったのね。
……家族の暖かさを求めていたのだわ」
クリスティアン王子がいた間、控えていたラドヤードが心配そうに様子を窺っている。
【士族】の件はまだ終了したわけではない。
バルヒュット連合国独自の階級であるが交雑自体を禁止しているわけではないのだ。
なのでこの度、もし討ち漏らしてもその連中が平民として生きていくのなら何ら問題はない。
だが一度特権を持った者たちがそれに耐えられるのか、それが問題だった。
「結局、もうしばらくお付き合い願いたい、ルディン嬢」
ヨアキムもジェラルディンの正体を知ってしまってからは大人しくなった。
「わかっています。
それと先日のトロールの件、結局ダンジョンは発生していたのかしら?」
しばらくここを動けないのならダンジョン攻略も面白いかもしれない。
「あ〜 あれも、後手後手に回っているようなんです。
頻繁にギルドには顔を出しているんですが良い話はないです」
【士族】の件ではジェラルディンの護衛のみに徹していたラドヤードに、トロール討伐の報酬からポーション代の回収まで、ギルド関連はお任せだった。
「主人様、待ちに待った情報が入ってきましたよ。
森の奥にダンジョンが発見されたそうです。
今、偵察のために冒険者を集めていますが……行きますか?」
「ええ、退屈しのぎにちょうどいいわね。ヨアキム殿はどうなさいます?」
「俺は連絡待ちなので遠慮しますよ」
【士族】退治に、思ったよりも拗れている都市があった。
どうやら尊大な貴族がいきなり極大魔法を使って警戒させてしまったようだ。
「ジェラルディン姉様……」
国に戻ったクリスティアンは、楽しかった数日のことを思い出し、惚けていた。
ようやく認められた婚約の、障害として横たわるのは7年の年齢差だ。




