190『アリスティンの災難』
「はじめまして、ジェラルディン姫。
私はサラバスのヨアキム・ヒュヴァリエンと申します。
以後、お見知り置きを」
ラドヤードに案内されてやって来たのは伯爵家の三男だという。
彼はスラリと背の高い、一見して優男の冒険者だ。
日に焼けた小麦色の肌、赤褐色の髪、琥珀色の瞳、一目で火属性の魔法士だとわかる。
「ジェラルディン・バラデュールでございます。
この度はご足労いただき、ありがとうございます」
貴族の令嬢が来客を迎えるのにふさわしい装いをしたジェラルディンが、洗練された所作でカーテシーをする。
「私はたまたま近くにいたのですが、こちらにはあとおひと方が向かっておられると思います」
「ええ、聞いておりますわ。
彼が到着しだい、殲滅すれば良いのですね?」
ジェラルディンがにっこりと微笑んだ。
3日後ジェラルディンは、ラドヤードに加え新たなボディガード、ヨアキムも共に冒険者ギルドに向かっていた。
それはジェラルディンに接触しようと毎日通ってくるアリスティンを牽制するものであり、クリスティアンが到着するまでの時間稼ぎでもある。
そしてこの地を含む、バルヒュット連合国の各地で【士族】に関する調査が行われていた。
「ルディン嬢!」
ジェラルディンがギルドに入って行くと、目立つ騎士服を着たアリスティンが喜色を浮かべて近づいてきた。
だが素早くヨアキムが立ちはだかる。
「何だ、君。無礼じゃないか」
「無礼? 無礼ねえ」
口角を歪め、苦笑いの形にしたヨアキムが素早く手を出して、あっという間にアリスティンを組み伏せた。
「どちらが無礼なのか、教えてやらないとダメかなぁ」
「それの血は赤かった。
下民はしっかりと躾けないと」
普段より低い声には何とも言えない迫力がある。
ギルドに居合わせた冒険者たちも、ジェラルディンたちから少しずつ距離を置きはじめていた。
騒ぎを聞いて姿を現したギルドマスターを始めギルドの職員たちも介入するつもりはないようだ。
だが、ラドヤードが希望した、ギルドの施設である武闘場の使用は認められた。そこに引きずられるようにして連れて行かれるアリスティンに同情する視線は極端に少なかったが。
「さて、あなたはどうして私に絡んでくるのかしら?」
ラドヤードひとりなら逃げだせたかもしれないが、今はもうひとりヨアキムがいる。
「それは、もちろんトロール討伐の時に命を助けていただいたからだ」
「本当にそれだけか?
主人に対して邪な考えがあったからだろう?!」
ラドヤードのテンションが上がっている。今日はストッパーとしてヨアキムがいるので、遠慮することはないようだ。
「違う! いや、ある意味違わないが、私は自分に使われたポーションの事で!」
上級ポーションが4本使われたことは、残された空瓶で判明している。
その支払いについて騎士団は個人で支払うように通告したようだ。
「ポーション?
ああ、そんなこともあったわね」
【士族】などと言うふざけた連中の事ですっかり忘れていた。
ジェラルディンにとってポーションとはその程度のものだったが、巷ではそうはいかない。
「騎士団には請求するつもりはなかったのだけど、支払って下さるおつもりがあるの?
あれはお高いわよ」
「いや、だから私は」
「金貨2000枚くらいはいただかないと」
金額を聞いてアリスティンは、今にも卒倒しそうになっていた。




