189『新たな客人』
フロントからの嫌な報告を受け、ジェラルディンは辟易としている。
「早速やって来たのね。
ホテル側が通すとは思えないけど、力ずくできた場合はラド、お願いするわね」
「承知致しました。お任せ下さい」
昨夜の伯父との話し合いの結果、クリスティアン王子の到着待ちとなり、まだ数日はこの状況が続くと思うとげんなりする。
ジェラルディンに破壊衝動があるわけではないが、いささか暴れたくもある。
クメルカナイの深層に潜って、憂さ晴らしも一つの手だと思案していた。
こうなると、動くことが出来るのはラドヤードのみとなる。
だが彼も余計な揉め事を避けるため、最低限の外出をするに留めていた。
「もし、ひょっとして君はジェラルディン様の護衛ではないか?」
ギルドに向かうラドヤードに話しかけてきたのは、見たところは冒険者に見える、だが長年鍛え上げた勘が只者ではないと訴える、そんな男だ。
「警戒させるつもりはないんだ。
そうだな……これで納得してくれるかな」
男はブーツに差し込んでいた小さなナイフを取り出し、ラドヤードが警戒する間もなく自分の腕を傷つけた。
浅い傷だがそこから流れ出した血は青い。
「貴族!」
「うん、たまたま近くにいて、緊急の要請があったのでやって来たんだ。
その証拠を出せと言われれば困るんだが……
そうだな、由々しき懸案は “ 偽貴族 ”ではどうかな」
ラドヤードの背筋がスッと伸びた。
「疑って申し訳ございませんでした。
主人の元に案内させていただきます」
「うん、ありがとう。
俺はサラバスのギルドに所属しているヨアキム・ヒュヴァリエン。
ヒュヴァリエン伯爵家の三男だ。
他の奴らは知らんが俺には普通に接してくれていい」
「ではヨアキム様、主人の元に案内させていただきます」
ジェラルディンの伯父である国王が早速動いた結果、近くにいたヨアキムが派遣されてきた。
それは貴族たちがこの件を重く捉えている証拠のようなものだろう。
そして今現在、クリスティアン王子を始め各国から王命を受けた者たちが続々とバルヒュットを目指していた。
「やはり大層な騒ぎになっているようね」
ヨアキムを連れて高級旅館に戻ってきたラドヤードは、彼が宿泊手続きをする間に部屋に戻ってきて、ジェラルディンに報告していた。
「他にもいらっしゃるような事を仰っていました」
詳細はわからないが、例の付きまとい騎士が問題なのはわかる。
だが貴族でないラドヤードには、この件が貴族としては深刻な問題なのだとはわかっていない。
なので今、このバルヒュット目指して血相を変えて向かっている貴族たちがいるということを想像すらしていなかった。




