187『【士族】』
平民の少女なら、コロッと惚れてしまいそうなその容姿、その仕草にもジェラルディンには嫌悪以外、何も感じない。
何しろ因縁のアルバートと重なる、その色合いはある意味ジェラルディンの地雷とも言えるだろう。
「今日はゆっくりと休みたいので、お気持ちだけいただいておきますわ。
少し疲れておりますの」
「それは大変だ!」
弾かれるように立ち上がったアリスティンがジェラルディンに触れようとすると、そこに立ちふさがったのはもちろんラドヤードだ。
「我が主人は未婚の淑女である。
軽々しく触れないでいただきたい」
ラドヤードは護衛として、嫌がるジェラルディンの気持ちを汲み、アリスティンを睨みつけた。
一触即発、騎士アリスティンの手が腰の剣にかかると、それを留めるように口を挟んだのは意外なことにギルドマスターだった。
「グズネツ殿、帯剣を許したのはあなたを信用したからだ。
もしここでその剣を抜くのなら、いくら騎士殿と言ってもただでは済みませんよ」
双方から来る圧に、さすがにアリスティンは剣から手を離した。
そして冷たい眼差しを向けるジェラルディンに気づいたのだろう。
陳腐な言い訳を述べて、その場を後にした。
「何だったの? あのひと」
早くも助けたことを後悔し始めるジェラルディンは、何となくだがこの後ややこしいことになる予感がする。
「ルディン嬢、申し訳ない。
手厚い治療に、どうしても礼を言いたいと粘られて同席を許してしまった。
まさかあのような状況になるとは……」
貴族の令嬢相手にはありえない対応に、ギルドマスターもびっくりしたようだ。
初対面の令嬢を相手に口説くなど、少なくてもジェラルディンの常識ではありえない。
大量のポーションを扱うことでジェラルディンが貴族だとわかっている筈だ。それでもあの態度とは理解に苦しむ。
「悪いけど今日はこれで帰らせていただくわ。
お話しは明日にしましょう」
ラドヤードを従えて帰っていくジェラルディンを苦々しく見送るメッシーニだった。
速攻で高級旅館に戻ってきたジェラルディンは、すぐに副支配人に部屋に来るように頼むと、先ほど触れられたローブを脱ぎ、部屋着に着替えた。
居間に戻ると部屋付きのメイドであるジリがお茶の用意をしていた。
「おまたせ致しました」
「呼び出したりしてごめんなさい。
少しお話したいことがあって来ていただいたの」
向かい側のソファーに座るように言うと、ジリに紅茶を出すように言う。
そして話し始めた。
「今回の討伐依頼で、ある騎士殿と知り合うことになったのですが彼は士族だというのです。
その【士族】とは何なのでしょうか。
私の祖国ではそのような階級はないのですが」
上得意の宿泊客であるジェラルディンの質問に、副支配人アンデルセンは納得がいった。
【士族】とはこの国特有の階級である。
「お嬢様もご存知の通り、この国は小さな領が集まって出来た、それでも小さな国です。
当然のことながら統治される貴族様の数も少なく、小国であるがゆえ他国との婚姻も限りがあって、それゆえ出来た階級です」
「それって、まさか」
ジェラルディンは目を見開いた。
「はい、貴族様が平民と婚姻した結果生まれてきた方たち。
そしてその方たちの血が一滴でも流れている方たちの総称です」
「なんてこと……」




