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174『明ける朝』

「しかし主人様、この新しいゲルは何と言うか、すごいですね」


「そうでしょう?

 空間魔法のレベルが上がったのか拡張機能を付与できるようになったの。

 次はラド専用のものも作ってあげるわ」


「ありがとうございます。

 俺のようなものにはもったいない話です」


「うふふ、私のレベル上げに協力すると思って受け取ってちょうだい」


 ジェラルディンは空間魔法を極めようと思っている。

 そのために、どうしても行きたい場所があるのだ。



 いつもよりはっきりと星が輝く空は、この後朝方にかけて気温が下がることを意味している。

 今、この宿の中から外を窺うことが出来ないので、最悪を想定して夜を過ごすしかない。


「あちらの薪は足りそうなの?」


「どうでしょうか。

 一応椅子の類を多めに運び込んでおりますが」


「なるべく手を貸したくないのよね。

 連中は、それが当然と思い込む動物だから」


 そして何でも他者のせいにする生き物でもある。



 暖炉には次々と薪が放り込まれている。

 主人の手で椅子が砕かれ、燃やされる順番を待っていた。

 ラドヤードがゲルから出てくると、部屋の温度は保たれているように感じられた。


「主人、薪の量は足りそうか?

 うちの主人様がこれからさらに冷え込むだろうと仰っている。

 それで少量だが薪を提供しようとのお考えだ」


「おお、助かります!」


 主人は拝みださんばかりの様子だ。


「なのでガンガン燃やしてください」


 このあと朝まで、最後は椅子だけでなくテーブルや備え付けの家具まで燃やして、何とか凍えることは免れたのだ。



 ジェラルディンの、時を測る魔導具【時計】により、今はもう昼近くになっていることを確認していた。

【塗壁】の魔法を解除し、外に出る準備は整った。

 そこで、結界石を身につけ防御しているラドヤードが扉に近づき、そっと隙間を開ける。


「人通りは見られないが、凍るほどの寒さではないようだ」


 ブクブクに着込んだ宿の主人が外に出ていく。

 比較的薄着の地元民は二階の部屋で待機し、呼ばれて初めて階下に降りるとそのまま家に向かって駆けていった。

 その姿を見て、旅人と商人が続く。

 彼らは乗り合い馬車の駅に向かったようだ。

 そしてジェラルディンとラドヤードも冒険者ギルドに向かうように装って、宿を出た。


「では主人様、目につかないところから壁を越えて、全速力で走ります」


「すまないわね。お願いするわ」



 辺境の小さな町は、この突然の寒気で少なくない犠牲者を出した。

 だがほとんどの家が暖炉を使っていたことと、早いうちに寒さに気づいて薪を足したこと。

 そして何よりも、この町の年寄りが何十年も前に同じようなことがあったことを憶えていて、家内のものに警告したことが大きかった。

 それでも直前に現れた、貴族とその護衛のふたり連れに疑惑の目を向けるものも少なからずいた。




 町と外を隔てる壁を越え、隣接する雑木林の中を走る。

 その軽々とした足どりはさすがラドヤードといったところだ。


「主人様、出来るだけ離れた方が良いでしょう。

 休憩なしで行きますが堪えて下さい」


 昨夜もほとんど寝ていないジェラルディンを気遣い、ラドヤードは腰のポーチから水筒(保温機能付き)を取り出し、渡した。


「揺れるので気をつけて下さい」


 冒険者生活をはじめて、初めて水筒に直接口を付けて飲む、といったことを覚えたが、それも今は慣れつつある。

 そしてそれをラドヤードと分かち合うことも常識となっていた。



 ラドヤードが暗くなるまで休憩なしで走った結果、かなりの距離を稼ぐことが出来た。

 このまま進めば、次の町まで3日ほどで着けるだろう。


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