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168『雪夜の野営』

 外気温はマイナス40℃。

 キラキラと光る粉雪混じりの暴風が吹き荒れるなか、木々の間に張ったゲルでは通常通りの2人が居た。


「久々に作ってみたけど、どうかしら?」


 もちろん魔導ストーブは出してあるが、暖房と乾燥を防止するのを兼ねて、今夜はジェラルディンが具沢山スープを作っていた。

 たっぷりの根菜、玉ねぎとじゃがいもとにんじんとカブに里芋。

 里芋を除いてさいの目切りにして、塩の効いたベーコンと一緒に煮込む。

 そこにショートパスタ……マカロニやペンネ、フジッリなどを下ゆでせず、そのまま投入する。

 ショートパスタが柔らかくなってきたら牛乳を足してしばらく煮込み、塩胡椒で味を整えて出来上がり。

 あり合わせの材料と簡単に作れることから野営食にはぴったりのメニューだ。

 それにラドヤードの大好物であるポテトサラダとコカトリスの唐揚げだ。

 どれも量はたっぷりとあるのでラドヤードも満足できるだろう。


「結界石のおかげで寒さはおろか風の音ひとつしないわね。

 移動の事を考えずに済むなら、このままゲルの旅を続けても良さそうだわ」


「おそらく、この寒気もあと数日でしょう。

 暦の上ではもう春ですし、こんな事になっているのはこのあたりだけだと」


「そうね。

 それよりも食事の後に相談したいことがあるの」




 ジェラルディンは、今手持ちの中で一番正確な地図を取り出し、机に広げた。


「今回のことでもうこの国に居るのは限界だと思ったの。

 ……この後指名手配されてもおかしくないわ。このまま国外に出たいと思うのだけど、どこが一番近いかしら」


「俺も国外に出た方がいいと思います。

 それで俺の考えですがこちらに向かうのはどうでしょう?」


 そう言ってラドヤードが指し示したのは思いもかけぬ方向だった。


「現在地からクメルカナイを避けて北側に回り込み、このあたりから南西に向かって端境の森を越えて……バルヒュット連合国に向かうのはどうですか?」


「バルヒュット……

 私、この国に関しての知識を持たないのだけど、どんな国なの?」


 そうですね、とラドヤードは考えをまとめるように机上を見つめた。


「バルヒュットは連合国と謳っている事でもわかるように辺境の小国が集まって建国された国です。

 ここは地図を見てもわかるように深い森が点在していて冒険者は生活しやすいところですよ」


 ただ、その森の深さは強力な魔獣を産む。この国はそれなりの実力を持つ冒険者でなければひと月も持たないだろう。


「では、また世話をかけるけどお願いね」


「はい、お任せ下さい」


 ラドヤードはにこやかに微笑んだ。




 翌朝、ゲルから出てみると森は幻想的な銀世界であった。

 サラサラの新雪は踏みしめるとキュっという音がする。


「ラド、ではお願いね」


 防寒の備えを十分にして、ラドヤードはジェラルディンを抱えあげた。

 いつものように、子供を抱くように縦抱きにして、今日は腰帯を使って固定した上で森の中を駆けていく。

 今日中にどこまで行けるだろうか。



「何ぃ?!

 昨日のうちに旅立ったァ?

 すぐに追いかけて捕まえてこい!」


 ジェラルディンたちが森の中を移動し始めた頃、クメルカナイの冒険者ギルドではギルドマスターが喚き散らしていた。

 朝一でジェラルディンたちを連行しようと【英雄の帰還】に人を差し向けたところとっくにチェックアウトしていて、さらに昨日のうちにこのクメルカナイから出立していたのだ。


「後ろ暗いところがあるから逃げたのだ!

 各地に連絡して逮捕しろ!」


 そんなふうに言っても、この寒気に閉ざされたクメルカナイから外部に出る手段は限られている。

 それも今は命がけだ。


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