167『クメルカナイとの決別』
「マスター、どういうつもりですか?」
バルタンの、いつもより低い声がその怒りを表している。
彼はジェラルディンとまだ話したいことがたくさんあったのだ。
「あなたが連中と懇意にしていたのは知っています。
でも、今のはさすがに筋違いでは?」
暗に癒着を当て擦っているのだがギルドマスターは平然としている。
「そうだな、少し言いすぎたかもしれない。
だが、それでもあの2人は義務を放棄した」
「義務などありませんよ」
バルタンが話をぶった切った。
「【死の舞踏】がルディンさんたちにまとわりついていたのは多数のものが見ています。
あまりのしつこさに、条件付きで同行を認めたのもね。
連中が行方不明になって、たとえ死んでいようが自業自得です」
バッサリと切り捨てられて、ギルドマスターはこれ以上追求するのは墓穴を掘りかねないと思い至ったのだろう。
無言で席を立つと自分の部屋のある、ギルドの奥に向かって歩き出した。
そして彼の苛立っている時の癖、イライラと爪を噛むという状態にある。
「あの娘、どこまで知っている?」
憲兵隊隊長と対峙するジェラルディンの機嫌は、ギルドでの一件で目下最悪だ。
「とても不快な出来事があったので私はもうこの町に居たくありませんの」
「隊長殿、我が主人はご存知の通り魔法士です。
寒さに対するすべも持っておりますので、たとえ人が凍るような寒波でも問題ありません」
ラドヤードがそこまで言っても憲兵隊隊長は首を縦に振らない。
ジェラルディンはひとつため息を吐いた。
「実は冒険者ギルドでトラブルがあったのですよ。
それで、その相手が簡単に冤罪をかぶせてこれる立場の者なので、その前にトンズラさせていただくつもりですの」
それで憲兵隊隊長はピンときた。
「それは……心情的にはお察ししますが、なおさらここを通す訳には」
「なるべく穏便に事を進めたいと思っているのですが」
そこでジェラルディンと隊長の間に、ひとりの憲兵が割って入った。
「隊長、そんな言い合いをしていてもしょうがないじゃないですか。
ここはルディンさんの言い分を聞いて外に出してあげましょう。
なに、手詰まりになったらすぐに戻って来ますって」
彼の頭のなかではジェラルディンたちが夜までにUターン確定だったのだが、これは良い意味で裏切られる事だろう。
「う〜む……
まだ納得できないのだが、認めよう。
だがくれぐれも拙いと思ったら戻って来るように」
挫折ありきの容認である。
だが結局のところジェラルディンたちが戻ってくることはなかったのだ。
出立を認められたジェラルディンとラドヤード。
いつものようにラドヤードに抱えられ、彼は足跡ひとつない真っ白な世界に足を踏み出した。
「どう? 行けそう?」
「ええ、それほど積もっているわけではないですし、大丈夫です。走れます」
様子を見ながらゆっくりと走り始めたラドヤードはぐんぐんとスピードをあげていく。
そしてそのまま国を縦断する大街道を目指して走り続けた。
「主人様、今夜の野営地はどうしますか?」
「風雪が強くなったときの事を考えて森の中にしましょう。
よさそうな場所を探しながら進んでくれる?」
クメルカナイで1000人以上を殺した殺人的な寒気を前にしても、ジェラルディンは相変わらずマイペースだ。




