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164『クメルカナイの現実』

「ルディン様!よくご無事で!!」


 従業員が宿の中に入ってすぐ、飛び出してきた支配人は抱きつかんばかりの勢いだ。


「ありがとう、ただ今戻りました」


「こんなところに立ちっぱなしで。

 どうぞ中に入って下さい」


 支配人の勧めに従って玄関から中に入ると、そこは見たところ以前と変わりなく見える。

 その証拠に、メイドがティーセットののったワゴンを押して現れ、目の前で紅茶を淹れてくれる。


「本当に……

 ダンジョンに行かれてずいぶんと経つのに、一切お話を聞かないので心配しておりました」


「ええ、攻略を進めていたのだけど一筋縄でいかなくてね。

 気がついたら結構な日にちが経っていたのでキリが良かったから上がってきたのだけど……びっくりしたわ」


 ジェラルディンは玄関を振り返って、首をすくめて見せた。


「はい、我々も驚愕しております。

 このようなことは、私もここに30年おりますが初めてでございます」


 やはり、かなり異常な事態のようだ。


「話は変わるのですが、今日からこちらに宿泊することは可能でしょうか?」


「宿泊ですか?

 このような状況ですからいつも通りのおもてなしは出来ませんが、ぜひお泊り下さい」


 ジェラルディンは宿泊が決まってホッとする。ラドヤードとも目線を交わしあった。


「この寒気で閉じ込められる形になったお客様もそれなりにいらっしゃいます。ただルディン様のお部屋は空いておりますので、どうぞお使いください」


 宿を確保したジェラルディンは安心してギルドと対峙することが出来る。



「次は冒険者ギルドですね、主人様」


 いつもの部屋に通されたジェラルディンにラドヤードが話しかけた。


「何となくだけど、ゴタゴタしそうで気が重いわ」


「今日はもうよろしいのでは?

 色々あってお疲れでしょう」


 体力的には問題ないが、気疲れしてしまっている。

 ジェラルディンは柔らかなソファーに腰掛けて、改めて淹れられた紅茶を楽しんでいた。



「支配人さん」


 着替えを済ませたジェラルディンがラドヤードを伴ってロビーに現れた。


「ルディン様」


 彼はうやうやしく頭を下げた。


「少し提案があるのですがよろしいかしら」


「はい。ではこちらへ」


 案内されたのは奥の会議室のような部屋である。

 勧められて腰を下ろしたジェラルディンは早速話を始めた。


「この状況が、もう10日ほど続いていると聞いています。

 今日通ってきたダンジョンの1階層もひどい状態でした」


 これは暗に食料不足を匂わせている。


「それでですね、今回ダンジョンで回収してきた食材を提供したいと思っています。

 まあ、お肉しかありませんが」


 その途端、支配人の顔が喜色に輝いた。


「本当ですか?ルディン様」


 助かります、と言いながら拝みださん勢いである。


「オークか、ミノタウロス、ホーンブルくらいですが量はたっぷりありますのでいつでもお出しできますよ」


 実はこの【英雄の帰還】のような高級宿でも、食品の備蓄に不足が出始めていた。特に野菜は根菜ぐらいしか残っていなかったが、次に困窮する事になるのが肉類だ。


 そう、クメルカナイは今回の災害で完全に混乱していた。


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