159『攻略再開』
あっという間に階段を駆け下りていくラドヤードとジェラルディンを目の前にしても【死の舞踏】の面々は一歩も動けなかった。
「くそっ!」
大した傷ではないのだけれど、的確な部位を狙ってつけられたそれらは、高速で移動するジェラルディンたちを追うのを許さない。
イレミアスはとりあえず怪我の治療に時間を割くことにした。
「あのクソガキ! 絶対ぶっ殺してやる!!」
それは追いつくことが出来るなら、という注釈が付くのだが、今は感情が昂ぶっていて現実が見えていない。
そう、現実だ。
ここは23階層、普通は階段の近くに魔獣は出ないが、イレミアスたちの血の臭いに誘われてきたのだろう、いつのまにか囲まれていた。
「おい、拙いぞ! こっちだ!」
全員がジェラルディンの影の棘によって足に何らかの傷を負っている。
慌てて荷物を持つと足を引きずりながら階段を駆け下りていった。
前門の虎後門の狼。
24階層はジェラルディンたちが通過したあとだと言うのに、もう階段下に魔獣がたむろしている。
「あいつら、わざと置いていきやがったな!」
23階層は半端ない数の魔獣が集まって来ている。
基本、魔獣は階層を動かないので追いかけてくることはないのだが、この場合【死の舞踏】の彼らは挟み撃ちになっていた。
「24階層の奴らはかなり強力な魔獣だな。
おい、大き目のやつ(魔法)何発くらい打てそうだ?」
「そうだな、範囲殲滅系で5発ってところか」
イレミアスと魔法士が話し合っている横で、弓師が矢に猛毒を付けている。
彼らは諦めていない。
意地でも30階層に行って地上に戻るのだ。
「前回も思ったけど、やはりこのあたりは魔獣の数が多いわね」
今、ジェラルディンたちは28階層にいる。
「滅多に冒険者が来ないから間引きが出来てないのだと思います。
これは、ある程度間引かないとスタンピードが起きるかもしれませんよ」
「それは困ったわね」
目の前で連なるように襲いかかってくる魔獣らを、一瞬で異空間に収納して、ジェラルディンは冷静な目であたりを見回した。
「さて、今日はこのあたりで野営しましょうか。
このまま30階層まで行くのは無理があるようだし」
「わかりました。
今すぐゲルを出します」
ここは昼間でも薄暗い、広大な森林地帯。獣系の魔獣、それも高レベルの個体が群れで出没する階層だ。
それに夜になると、数ある魔獣の中でもタチの悪い狼系の魔獣【ゴライアスウルフ】が狩りを始めるのだ。
「大丈夫だと思うけど【結界石】は多めに設置しましょう。
今夜は私もここに泊まるわ」
「そんな、ご主人……」
「うふふ、たまには冒険者らしく【野営】してみたいの」
ただ入浴や着替えなどは影空間の隠れ家か侯爵邸で行う。
就寝時はゲル内をパーテンションで仕切り、簡易ベッドを2台入れることにした。
夕餉は料理長特製の【ミノタウロスのすね肉のエール煮】がメインだ。
ラドヤードの為に量はたっぷりとある。
新鮮なレタスのサラダを付け合わせとして2人は舌鼓を打った。




