145『早朝のひととき』
早朝から憲兵隊は一軒の家に向かい、今はその家の様子を伺っていた。
また、まだ開店していない雑貨屋などに回る憲兵の姿も見られた。
そしてナナヤタ不動産にも憲兵が在中している。
事の次第を知らない者たちは町のあちらこちらで見る憲兵隊の姿に緊張感を覚えていた。
「主人様、おはようございます」
ジェラルディンが起きたことを気配で感じたラドヤードが、寝室の扉をノックした。
「入ってよくってよ。おはよう、ラド」
寝巻きの上にガウンを羽織ったジェラルディンが、ソファーに腰掛けている。
「呼び出しのベルを鳴らしたので、もうすぐメイドがくるでしょう。
お茶をいただいて、着替えをして……
そのあとは、ゆっくり朝食はいただけないでしょうね」
ぐっすりと眠って、それなりに疲れは取れている。
「……そうですね。
一晩でどれだけの情報……成果を持ってこれるやら。
まあ、性根の腐った役人崩れでないだけマシじゃないですか?」
そこにノックがあって昨夜のメイドが紅茶の支度とともに入ってきた。
「お嬢様、おはようございます」
素早く紅茶を注ぐとジェラルディンに差し出した。
「おはよう。
ちょうどお茶が欲しかったの。
ありがとう」
「お嬢様、この後お支度のお手伝いをさせていただきますが、朝食はこちらにお持ちしましょうか?」
「そうね、ラドと2人で摂るからお願いできるかしら」
「はい、かしこまりました」
彼女の眼差しが壁際に控えていた他のメイドに向けられると、音もなく部屋を出て行く。
このあたりはさすが、貴賓室に侍るメイドだ。
「それと、後ほど支配人が御目通りしたいと言っておりました」
「そうね、もしそちらが良ければ、憲兵隊隊長が来たとき立ち会ってもらえれば嬉しいわ」
「かしこまりました。そう伝えておきます」
壁際のメイドがまたひとり、部屋から出ていった。
薄紫の花柄のアラクネ絹で作られた普段用のドレスはシンプルなAライン。そしてジェラルディンの細い首を隠すスタンドカラーでフリルが施されている。袖も手首まであり、こちらもフリルが手首を飾っていた。
くるぶしまでの丈に上履きのミュール。
シンプルなペンダントが胸元を飾っているが、見るものが見ればすべてが一級品だと見てとれる。
メイドがうっとりとしながら髪を梳り、ハーフアップに結い上げた。
「お嬢様、今朝は雪がちらついています」
「まあ、道理で冷えるはずね」
魔導暖炉で燃えているのは魔導の火だ。それなりの出力なのだがこれほどの部屋では直火に劣る。
ジェラルディンたちがダンジョンに潜っている間に季節は進み、今はもうすっかり厳冬期に入っていた。
「このクメルカナイはそれほど雪が積もらないのね。
去年冬を越した町は一晩でびっくりするくらい降ったの」
「ここもひと冬に一度か二度、大人の胸のあたりまで降りますよ。
でも主要な道とダンジョンに向かう道は優先的に除雪するのです」
「まあ、それは大変ね」
扉の近くに立っているラドヤードにとってはどうでもよい話だが、それでも一応気を配っている。
そこにノックがあってラドヤードは誰何した。
「憲兵隊隊長のベルクラムです。
今までの報告に参りました」




