142『憲兵隊、到着』
実はラドヤードはダンジョン攻略に出発する前に、原始的だが一番効果的な “ 罠 ”を仕込んでいた。
それは扉の上に藁を一本置いておくもの。こんなものでも扉の開きのところに置くと、開けられた瞬間下に落ちるので、ジェラルディンとラドヤード以外の誰かが入ったということがすぐにわかる。
そして鍵は本来なら2人以外は持っていないはずなので、賊が侵入したということなのだ。
「主人様、先日お話しした仕掛けが早速作動したようです。
すぐに憲兵隊が来るでしょうが、お疲れなのにけしからん事です」
ラドヤードはかなり憤慨していてすっかり目が据わっている。
とりあえずジェラルディンのために椅子を出し、座らせてから、気配を探っていた。
「……今のところ家の中に侵入者はいないわ。
今までも侵入していた奴なら、私たちの留守を把握しているという事?」
その想像がついてしまって、ジェラルディンの顔が引き攣ってしまう。
そして片やラドヤードの方は、今夜は雪こそ降っていないが反面そのせいで冷え込みが厳しく、防寒のローブから出ている顔だけが赤くなっているジェラルディンを心配していた。
「お待たせしました!!」
寒さで白く見える息遣いも荒く、バルタンが駆け込んでくる。
そして後ろから揃いの甲冑に身を包んだ10数人の男たちが続いている。
「こちらの住人の方ですか?
通報をいただいた憲兵隊の、私は隊長のウインドです。
家の様子がおかしいという事で出兵して参りましたが、詳しい話を聞かせてもらえますか?」
その役はラドヤードが引き受けた。
そして最初から説明していく。
「では以前から異常を感じてらした、という事ですか……」
ひと通り話を聞いた隊長は、何か考え込んでいるようだ。
「ええ、ラドの部屋は鍵がありますが、私の部屋には無いのです」
元は貴族の別邸だ。
主人の部屋に鍵などあるはずもない。
「もうご存知かも知れませんが、私たちは冒険者でダンジョンに潜っています。
最近は頻繁にダンジョンに行っていますが、それ以外は賃貸であるこの家に住んでいますの。
その留守中にやられたみたいですわ」
「それで、以前はどのようなものを盗られたのですか?」
「それが……はっきりとわからないのですが、細々としたものがなくなっているようですの。
初めは気のせいかと思っていたのですが、前回は香油の入った小瓶がなくなっていて……これは確かめましたので間違いありません」
憲兵隊隊長は大変なことになったと、表情を歪めた。
目の前にいるこの少女は紛れもなく【貴族】だ。
まだそのあたりの詳しい事は聞いていないが、奴隷の護衛を連れているところなどを見ると腕試しと言うところなのか。
実はまだ憲兵隊にはクメルカナイダンジョンの、最深到達階層の更新の件が知らされていなかった。
まして、そのような大事を成した冒険者がこのような可憐な少女だとは誰も思いつかない。
「では家内をあらためさせていただきます。
ルディン嬢、危険なので下がっていていただけますか」
中に誰もいない事を知っているジェラルディンは、それでも大人しく聞き入れてバルタンとラドヤードと共に後ろに下がった。
そんなジェラルディンの前で扉を開けようとするが、鍵がかかっていてビクともしない。
「これは……
鍵を壊して侵入したわけではないようですね」
斥候、盗賊職の鍵開けの技術持ちでも、一度開けたものに改めて鍵かけを行う事はまず無い。
憲兵のひとりが魔導具で鍵穴を照らし、覗きメガネで中を改めている。
「隊長! 鍵穴に傷は見当たりません。
これは鍵を使って開けられたものだと思われます!」
「鍵?
そんな事はあり得ないわ。
ナナヤタ不動産から提供されている鍵はふたつ。
それらは私とここにいるラドヤードしか持っていません」
犯罪捜査に経験豊富な隊長の目がキラリと光った。




