124『ダンジョン内、2日目朝』
「昨夜はお客様がいらしたようね」
影空間の隠れ家で就寝していたジェラルディンが、ダンジョン外時間早朝に朝食を持って戻ってきて開口一番、そう言った。
「はい、無作法にもドンドンと結界を叩いていましたね」
「あそこにいた皆で来たのかしら。
それなりの人数だったようだけど」
「このゲル型の野営用魔導具は他にないですからね。
珍しいので物見遊山にやって来たのでしょう」
それなりの上級冒険者なら持つことが可能だろうが、ジェラルディンは販売していないし真似をして作っているものがいるとは聞かない。
「それならそれなりのレベルのものを、特許を取って売り出しても良さそうね」
ジェラルディンはテーブルにスクランブルエッグ、腸詰、アボカドのサラダを並べて紅茶を淹れる。
ラドヤードにはパンの他に蒸したてのじゃがバターも添えて朝食だ。
「この腸詰、侯爵家の取引先の肉屋の名物なのよ。
歯ごたえがぷりっぷりなの」
普段の食事ではあり得ない、ジェラルディンが腸詰をフォークで刺して齧りつく。
パリっと音がして腸詰の皮が口の中で弾けるようだ。
「これはシンプルに茹でたてか、グリルが良いわね。ん〜美味しい」
口の肥えたジェラルディンと生活を共にするようになって、ラドヤードは自分も美食を好むようになったことに驚きを感じていた。
彼女に買われる一年前より以前の食が思い出せない。いや、思い出したくない。
「今日はどんな予定?」
ジェラルディンは、冒険者業に関してはよくあるわがままな貴族ではない。
自分がわからないことには要らぬ口を挟まないし、今回のダンジョン攻略にはラドヤードにその計画を任せている。
「昨日と一緒です。
主人様を抱えて階層を最短距離で走り抜けます。
主人様も昨日と同じように【探査】で索敵をお願いします」
「わかったわ。
それと10階層からは出現する魔獣が少し強くなるのよね?
いくらか異空間に収納しておいた方が良いかしら?」
「そうですね……
オークは食肉として重宝されます。
冬の、食料が制限されるなか、それなりで買い取りしてもらえるでしょう。
反対にゴブリンは買い取りも安く無駄です。上位種のゴブリンの魔石くらいですね」
こうしてラドヤードがジェラルディンに冒険者としての知識を授けていく。
さて、10階層への階段前に陣取っていた2パーティーは、ジェラルディンたちよりもずいぶんと早く、黒パンと干し肉と水で朝食を摂ると競うようにして階段を降りていった。
彼らは中級レベルの冒険者で、そろそろ限度一杯一杯と言うところだ。
「なあ、例のあいつら、見つかってないんだろう?」
昨夜の、まだ余裕のありそうな方のパーティーが、早足で進んでいた。
もう一つの方のパーティーとは徐々に間隔が開いてきている。
「【銀狼の咆哮】か……
ひとりでも見つけて、持って帰れればいい金になるんだがな」
「でもあの依頼のおかげで新しい “ 湧き ”が起きて、ダンジョン内の魔獣の数が増えてるんだろう?」
ダンジョンでは大規模討伐などで魔獣の数が減ったとき、新たに魔獣を生み出す傾向がある。
この時期は、ある程度の力を持つ冒険者にとっては稼ぎ時で、先日の【銀狼の咆哮】捕縛、討伐依頼をわざと受けずに、こちらを目指していたものもいた。
ただこういう時は魔獣の活性化も顕著で、思いもよらぬ低ランク魔獣にやられたりしてしまう。
例の、昨夜寝場所を分け合ったパーティーもそのクチで、軽くない怪我を負っているものもいた。




