122『ダンジョンアタック前日』
なぜか冒険者でごちゃごちゃしているダンジョンを避けて、ジェラルディンたちは数日家にこもっていた。
ただジェラルディンはそのほとんどを影空間の隠れ家で過ごし、ラドヤードはホールで武器のすべてを出してその手入れをしていた。
ちなみにポリーナとか言う使用人は無視である。
今日も玄関で喚いていたが、ラドヤードがそれに応える事はなかった。
そしてジェラルディンが影空間で何をしていたかと言うと。
「お芋を潰すのは、結構腕力がいるのよね」
蒸した芋の皮をむき、ポテトマッシャーで押しつぶすと塩胡椒する。
それから侯爵邸の厨房で作られたマヨネーズを入れて、一度かき混ぜておく。
それから刻んでおいた色々な具を入れて混ぜ込み、もう一度塩胡椒、マヨネーズを足して出来上がり。
ラドヤードの大好物、ポテトサラダである。
今回はゆで卵ベースと刻みハムベースの2種類を作ってみた。
さらにオーブンからはパンの焼ける良い匂いがしている。
そして異空間収納には1日以上煮込んだビーフ(ミノタウロス)シチューが熱々の状態で食べてもらえるのを待っていた。
そう、ジェラルディンは今回、侯爵邸の料理長からもらったレシピで調理していたのだ。
もちろん彼からは鍋の数で10個以上、弁当用の手提げバスケットは数え切れないほど渡されている。
宿泊用のゲルや結界石にも改良を加えた。
これはジェラルディンの空間魔法の技術が、いわゆるレベルとともに上がり、結界石はその威力が格段に上がり、ゲルに至ってはその大きさと中の設備をそのまま出し入れする事が出来るようになったのが大きい。
ジェラルディンはそこにラドヤードの寝泊まりが快適になるように手を加えた。そしてゲル自体に結界を付与した。
「それぞれが持つ結界石も強化しておきましょう。
ダンジョン、楽しみだわ」
先日の浅層はラドヤードに抱かれて走り抜けただけだが、その先に進むと草原や森、なんと山岳地区もあるそうだ。
そこまで行くつもりなら、それなりの日数ダンジョンで過ごさなければならない。
ジェラルディンはうきうきと準備を進めていて、明日には出発することになる。
「よう!新人さんたち、ダンジョンはどうだった?」
ジェラルディンとラドヤードは、明朝から潜るダンジョンの最新の情報と依頼を受けに、夕方になってから冒険者ギルドを訪れていた。
そして今夜はギルドに付設された酒場で夕食を食べることにしたのだが、早速先日のイレミアスが声をかけてきた。
「あら、ごきげんよう。
気にかけていただいてありがとうございます。
ええ、楽しかったですわ」
ジェラルディンはにこやかに挨拶し、礼を言った。
ただ、イレミアスはジェラルディンの態度……貴族の特徴である慇懃さに気づかなかったようだ。
誘われたわけでもないのにジェラルディンたちのテーブルに同席するつもりか、どっかりと椅子に座っている。
「おい、エールを持ってきてくれ!」
ジェラルディンはラドヤードと、ちらりと視線を交わして、心の中で溜息した。
「そっちの兄さんもエールくらいどうだ?」
「俺はお嬢様の護衛ですので、外では飲まないようにしています。
そちらは……遠慮なくどうぞ」
「おう、そうさせてもらうわ。
それと俺の名はイレミアスな」
「私はルディンと言います。
彼は私の護衛のラドヤードです」
「うんうん、よろしくな」
ジェラルディンたちはその夜、上級冒険者であるイレミアスから、これから潜るダンジョンの注意点を延々と聞かされることになったのだ。




