121『ようやくダンジョンへ』
ナナヤタ不動産から派遣されて4日目、ようやくポリーナは邸宅の中に入る事が出来た。
案内は主人の護衛で奴隷であるラドヤードだ。
「2階の主人様のお部屋と、一階の俺の部屋、あと風呂やトイレや厨房以外の部屋は使っていないので鍵をかけてある。
掃除と言ってもそのくらいだな。
それと俺の部屋は自分で掃除するので入らないでくれ。
洗濯物は洗濯室に出しておく」
あと掃除するための道具の場所を言うとさっさと部屋に戻ってしまった。
ポリーナは内心憤っていたが、顔に出さないように頷いておく。
そしてそのまま2階に上がり、主人に挨拶するために扉にノックした。
「お入りなさい」
年若い少女にしか見えない主人にしては堂に行った受け応えである。
「改めて挨拶に参りましたポリーナです。今日からお世話になります」
「私が雇ったわけではないですけど、まあお掃除とお洗濯でもしていればよいのではなくて?
もう下がって結構よ」
軽くお辞儀をして部屋から下がったポリーナは憤怒のあまり顔を歪ませていた。
『あの少女、何様のつもりだ』と。
その答えはもちろん貴族様である。
ポリーナはジェラルディンが貴族であることを知らなかったのだ。
そしてその頃、冒険者ギルドから【銀狼の咆哮】の捕縛、討伐依頼が凍結された。
これは依頼が達成されたわけでなく、彼らの実力では生き抜くのが難しい第20階層まで捜索した結果、ごく浅い階層でパーティーの斥候職リリの遺体が見つかった以外何の情報も、彼らの遺体も得られなかったのが理由である。
彼らがダンジョンに逃げ込んでからの日数とその装備を鑑みて、全滅したのではないかと結論づけられたのだ。
本来ならいささか早すぎるきらいもあるが、貴族絡みのこの件の決着を急いだのだろう。
一応、誰か生き残りがいた場合のため取り消しにはなっていないが、早くもダンジョンは通常を取り戻していた。
「あら、もうダンジョンに潜れるのですか?」
すでにチラチラと小雪の舞う中、ギルドにやってきたジェラルディンたちは、バルタンからそう聞かされて溜息した。
「ようやくですね。どうします?」
「そうね、早速行ってみましょうか」
呑気な会話を交わしているふたりに、周りの冒険者が呆れた様子で見ていた。
その中のひと組、このダンジョン都市でも数組しかいないA級パーティー【死の舞踏】のリーダー、イレミアスが近づいてきた。
「失礼、お嬢さん。
見たところかなりの軽装備だがダンジョンは浅層と言えども油断できない場所だ。悪いことは言わない、今日のところは出直して装備を整えてから出直した方がいい」
「あら、ご忠告ありがとうございます。
でも私たち、装備はちゃんとここに持っていますのよ」
ジェラルディンは外套の下のウエストポーチに触れた。
その手の下の膨らみに一瞬目を細めたイレミアスはさわやかな笑みを浮かべた。
「それならいいんだ。
差し出口をして悪かったな」
「いえ、ありがとうございました」
「ラド、今日のところは少しだけ様子を見にいってみましょうか」
「はい、主人様」
ふたりはギルドを出て小走りでダンジョンに向かっていた。
雪は先ほどより激しくなっている。
「こういう都市型ダンジョンは便利ね。
第一層からすぐに入り口だもの」
街中を隔てる壁と同じように “ 門 ”があり、そこに兵が立っている。
彼らにギルドカードを提示しなければ中に入れないようで、今も数人が並んでいる。
ジェラルディンたちもその列に加わり、すぐに中に入る事が出来た。
「普通の洞窟型のダンジョンですね。
まあ、中はその限りではないですが。
浅いところは大した魔獣もいませんし、突っ走ります?」
「そうしましょうか」
ラドヤードの左手が伸びて、軽々と縦抱きされたジェラルディンはこのまま探査に専念することになる。




