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113『静かな怒り』

 突然現れたジェラルディンの様子にただならぬものを感じ取ったタリアは、抱え込むようにして部屋に入った。

 身体を預けやすいようにクッションを配置し、ジェラルディンを座らせる。

 その後、さほど時間を置かずに紅茶が運ばれてきて、連絡を受けたバートリが駆けつけてきた。


「姫様、どうなさいました?

 ……お加減が悪そうに見えます。

 失礼します」


 そう言って触れた額は熱を持っておらず、反対に冷たく感じた。


「少し……色々あって寝不足なだけなの。横になりたいわ」


 元々ジェラルディン付きの侍女たちが群がるように取り囲み、あるものは靴を脱がせ、あるものはボタンをリボンを外していく。

 毎日きちんと調えられてきたベッドカバーが外され寝具がはねのけられた。

 その間に一度シュミーズすらも脱がされたジェラルディンは、ゆったりとした寝間着に着替えさせられ、あっという間にベッドに横たえられた。

 そしてカーテンが引かれ、部屋の中は暗くなる。


「ジェラルディン様。

 私が付いておりますので安心してお休み下さい」


 タリアがそう言って上掛けを引き上げた時、すでにジェラルディンの意識は夢うつつの状態だった。




 薄く瞼が開いたジェラルディンが、徐々に覚醒していく。


「……?」


「お目覚めですか?ジェラルディン様」


 耳に馴染んだ声を聞き、一気に目が覚めたジェラルディンはゆっくりと上体を起こした。

 タリアがその頼りない肩にガウンを着せ掛ける。

 室内は魔導ストーブで温められていて、さらなる眠気を誘ってくるが。


「タリア……今、何刻くらい?」


「もう夕刻でございますよ。

 少しは復調なされましたか?」


 ジェラルディンとタリアの遣り取りに気づいたのだろう。

 侍女たちが素早く動き出す。

 そしてまもなく、ノックの音がして開けられた扉からバートリが入ってきた。


「姫様。

 急なお戻り、大変吃驚致しました。

 お加減の方はいかがですか?」


「ありがとう、迷惑かけます。

 ……よく眠れたので思ったよりもすっきりしています。

 皆もありがとう」


 壁に沿って並んでいた侍女たちが揃って会釈する。


「ジェラルディン様、一体何事なのでしょうか?」


 タリアが心配そうに聞いてくる。

 ここでジェラルディンは昨夜起きた事を包み隠さず話して見せた。


「何と言う事を……」


 さすがのバートリも絶句である。

 タリアは悔しさのあまり涙を流している。


「それで混乱してしまって……

 昨夜のその一件から、自分が自分で無いようで、正直今も気持ちに整理がつきません」


「その者は、命でもって償うしかないでしょう」


 いつもは柔らかな声で甘えてくるはずが、いつになく厳しい声で話に乱入してきたのは、漆黒の髪の王太子クリスティアンである。


「クリスティアン様!」


 タリアの手がすっと伸びて、ゆったりとしたデザインのガウンが寝間着を覆い隠していく。


「このような格好で申し訳ございません」


「いえ、姉様のお具合が悪いと聞いて、いてもたってもいられず飛んできてしまいました」


 これは比喩ではないだろう。


「陛下も心配していらっしゃいます」


 王宮に報せたのは誰か、とジェラルディンはバートリに視線を移したが、本人は何処吹く風。

 確信したが目立たないように溜息するしかない。



「しかし、そのような蛮行を行うものがいるのですね」


 ジェラルディンが着衣を調えるため応接室に案内された王太子クリスティアンは、詳細をバートリから聞いていた。


「ダンジョン都市だという事ですから気性の荒いものがいてもおかしくないですが……貴族に向かってそのような事、そのものは自殺願望でもあるのでしょうか」


「そうだな。

 ……どちらにしてもこのまま捨て置くわけにはいかぬ。

 上級貴族の女侯爵が侮辱されたのだ。

 相応の罰を下さねば。

 陛下も同じお考えになると思います」


 クリスティアンは自らのその手で引き裂いてやりたい気持ちでいっぱいである。


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