112『上級冒険者になりきれない者』
もう夕餐が終わり、早いものは就寝の支度をする時間だ。
そんな時間帯に宿から追い出された【銀狼の咆哮】の面々は、とりあえず手分けして今夜の宿を探し回った。
だが不自然なほど、どこにも空室がない。
彼らはたとえ一室でも空きがあれば、パーティーのメンバーがバラバラになったとしても分宿するつもりであったのだが、最下層の部屋からスイートまで不自然なほどまったく空室がなかったのだ。
実はこの状況には裏がある。
【英雄の帰還】側としてはとりあえず、このけしからんパーティーを追い出して、その上彼らがどこにも宿泊できないように業界の連絡網を使い、今回の件を暴露したのだ。
なので彼らにたとえ一室たりとも提供する宿はない。
そして冬期に入った今、ジェラルディン並みの装備を持たない彼らはテントで野営することも出来ずに、やむなくダンジョンに向かっていた。
ダンジョンには四季が無く、野営することも可能だがいかんせん魔獣が出る。
パーティーの一員である魔法士は結界の魔法を使用することが出来ず、ジェラルディンのように結界石を持っているわけではない。
今夜は交代で見張りをする事になるだろう。
そして彼らは、魔獣以上に恐ろしい存在を知らない。
ジェラルディンは昨夜の一件で、冒険者の粗野さを思い知った。
貴族が食事中にそのテーブル上のものを台無しにされるなど、あってはならない事である。
事実、唖然として瞬時に対応できなかったジェラルディンはそのあまりの衝撃に、昨夜は中々寝付けなかったほどだ。
そして、ルームサービスされた朝食も進まない。
「主人様、気分が優れないのなら今日の契約は日延べしてはどうでしょうか?」
「そう、ね。
寝不足もあるのかしら、少し身体が怠いわ。
ナナヤタ不動産に使いを出してくれるかしら」
「俺が行って来ますよ」
ジェラルディンは今日は侯爵邸に戻る事にし、ラドヤードにそう告げた。
……今は慣れた自宅で、家族と言って差し支えない使用人たちに囲まれて、疲れた心を癒す事にする。
約束の時間にやって来たのがラドヤードだけだということに、ラナバルが気持ちを引き締めた。
「ようこそ、ラドヤード君。
ルディン嬢はどうなさいましたか?」
挨拶もそこそこにラドヤードは昨夜のことをかい摘んで説明した。
「なんてことだ」
ラナバルの表情が歪む。
この町はダンジョン都市という成り立ちから、他よりも冒険者の数が圧倒的に多い。
そして上級から駆け出しの下っ端まで玉石混淆、その素行の悪さに悩まされてきたのだ。
「で、ルディン嬢のお加減は?」
「昨夜は良く眠れなかったようで、今はお休みになっていらっしゃる」
「まったく、頭の痛い問題ですね。
そのパーティーの名は何と言いましたか?」
「確か……【銀狼の咆哮】とか」
「ああ、最近売り出し中のパーティーですね。
やっと上級冒険者の仲間入りしたと言う話ですが、それなりの品格と言うのはまだまだで、富裕層からの個別依頼は受けさせられないと聞いていますよ」
だが、今回の事件で降格は免れないだろう。
何しろ事を起こした場所が悪かった。
ダンジョン都市の数少ない社交場で、本来その場に入ることが許されない階級の冒険者があろうことか貴族に迷惑をかけたのだ。
彼らの理屈としては、見た目が少女なジェラルディンが奴隷と食事をしているのが癪に障ったのかもしれない。
早い時刻に彼らがこのレストランの利用を断られたという事も理由のひとつだろう。
だが貴族が奴隷落ちした腕の立つ冒険者を護衛とするのはよくある話なのである。
下手な冒険者を護衛にして裏切られたら目も当てられない。
その点奴隷は “ 絶対に ”裏切れない、優秀な護衛になるのだ。
そんな彼らと独特の友情を暖め合い、主人と同じ待遇であつかう。これは自然なことだ。
それを理解できないバルバルと言う男、それだけの存在なのだ。




