111『放逐』
この宿に宿泊中の【銀狼の咆哮】のリーダー、ヤルドムンドはバックヤードの休憩室のようなところに連行され、微笑みを浮かべているが笑っていない、殺気に満ちた視線に捉われていた。
「結論から申し上げます。
……宿泊費はお返しします。
破損した備品の弁償も結構ですので、今すぐ当宿から出て行って下さい」
【銀狼の咆哮】は、つい最近上級冒険者(所謂B級以上)に昇格した、勢いのあるパーティーだ。
それで今回、初めて高級宿であるこの【英雄の帰還】に宿泊したのだ。
彼らは最低ランクの、一人一泊金貨一枚の部屋に宿泊しているのだが、このランクの宿泊者は例のレストランを使うことが出来なかった。
それなのに小娘であるジェラルディンが悠々と食事しているのがバルバルには気に入らなかったのだろう。
そして近づいてみると連れの男は奴隷である。
酒が入っていることもあるが、元々直情的な性格のバルバルは、この宿そしてそこにある、自分たちが利用する事が出来なかったレストランがどういう場所か、理解できていなかった。
このクメルカナイはダンジョン都市ゆえに普通の富裕層や貴族の住民が極端に少ないのだが、いないわけではない。
そしてその数少ない彼、彼女らの社交場のひとつがこの【英雄の帰還】なのだ。
なのでこのレストランとボールルームは一般客は入場禁止で、もちろん冒険者などは超一流で貴族や富裕層と繋がりのあるもの以外立ち入る事すら許されない社交場だ。
「あなたの同僚が無礼を働いた方は某国の上級貴族、侯爵令嬢です。
その場で殺されても文句は言えませんよ。
ずいぶんお怒りでしたので覚悟された方が良いかもしれませんね」
慇懃な所作で早く出て行けと示されて、ヤルドムンドは足早に休憩室を出た。
そしてパーティーの皆に報せるため小走りで部屋に向かった。
「ええっ!? どうして……?」
準備に時間がかかるだろう、パーティーの紅一点斥候職のリリは、ヤルドムンドのノックを受けて開けたドアの内側で佇んだまま、悲鳴に近い声をあげた。
「宿の支配人に今すぐ出て行ってくれと言われた。
早く支度しろ」
リリはこれから入浴するために装備をすべて外していた。ブーツも脱いでいる。
「そんな事言っても……
こんな時間からどうするつもり?」
「知るか!
バルバルの奴がやらかしたせいでとんだとばっちりだ」
食ってかかってくるリリをいなしながら、ヤルドムンドは次の部屋、魔法士のドルイドと盾職のボイドの2人部屋にノック無しで入っていった。
「皆んな、ここにいたのか。
手間がはぶけて助かるよ。
……今宿側から、すぐに出て行くよう言われた。
さっさと荷物をまとめろ」
「な、なんで出て行かなきゃならないんだ!」
その原因であるバルバルが、まだ酒が抜けていないのだろう……クダを巻いている。
「お前が貴族さまに無礼を働いたからだろうが。
今すぐ宿を出て、出来ればこの町から出た方がいい。
あの護衛の奴隷、かなりの腕だぞ」
「でも今頃出ていって、どこに行くって言うんだ」
ボイドの言うことは最もだ。
「望み薄だが何軒か宿を回って、どうしてもダメならダンジョンの中で夜を明かすしかない。
あそこなら少なくとも凍死はしない」
青白い顔をしたドルイドが荷物をまとめ始めた。




