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第8章 千葉

第8章 千葉


 一週間後の水曜日にディーラーから連絡が来て、翌日にバイクが納車される事になった。

この間に陽菜は先日のツーリングの動画をあげて、かなりの再生回数を稼いでいた。

 そして敬純の方も同じ動画をあげたのだが、こちらはそれなりだ、それでもいつもの再生回数よりずっと多いと言うのがある意味情け無い。

 陽菜の方のコメントで

「何で、アウトインアウトで走らないの、その方が早く走れるのに」

「アホか、公道はサーキットじゃねぇ、ブラインドで対向車が飛び出してきたらどうするんだ」

「丁度、元国際A級レーサーの『サバトラ』さんが、その動画をあげてるよ、『ゆかりん』とコラボ見たいだ」

なんて言うレスが付いていたので、どうやらそのおかげらしい。


「前から思っていたんだけど、良く『納車しました』って動画上げてる人居るけど、なんで受け取るのに『納車しました』なんだろうね、店の人が言うなら良いけど、客側からなら『納車されました』とか『バイクが来ました』だと思うんだけど」

「さぁ、なんででしょうね?」

なんて言う話をしながら、店にGT-Rで向かう。

 

 店に着くと陽菜のMultistrada V2S Touringは既に全てのオプション……社外品のエンジンガードや前後のアクスルスライダー等、敬純のV4とほぼ同じ物……も取り付けれて、ガソリンも満タンで、納車準備が完了していた、そして陽菜がバイクのスイッチ類や各種機能の説明をスタッフから受けている間に、敬純はオンラインでオーダーしてあった陽菜用のスリーシーズンのライディングスーツを受け取り、全ての支払いを済ませて、荷物をGT-Rにしまう。 陽菜の納車の様子は、店のスタッフが陽菜のスマホで撮影してくれている。

陽菜が嬉しそうに、先日購入したばかりのAGVのヘルメットを被り、店のスタッフ達に見送られてパーキングから走り出す所は敬純も撮影した。

 そのまま自走で家まで戻る陽菜を追うように敬純もGT-Rを発進させた。

これまで、敬純のV4で自宅付近を練習をしていたので、陽菜はなんの問題も無くV2を走らせて敬純より10分程早く家に到着している。

 今日はこのまま千葉にツーリングに行く予定だ。

敬純もツーリングウェアに着替えて、バイクを引き出す、最初の目的地は『海ほたる』で、そこでランチの予定だ、葉山からなら一時間程度なので丁度良い時間になるし、平日なのでそんなに混雑していないと予想している。

 家を出て逗葉新道に入り横浜横須賀道路、湾岸線と乗り継いで、東京湾アクアラインと言うコースだ。

途中渋滞も無く、快適に海ほたるに到着、二人でマリンコートでランチ、陽菜は『ち~ば丼』敬純は『

とんぎゅう丼』を食べる、まぁ味はそれなり。ランチの後は『千葉フォルニア』こと『袖ヶ浦海浜公園』で動画を撮って、そして本格的な千葉ツーリングに出発する。まずは館山まで東関東道と館山バイパスで行く。そして『房総フラワーライン』『外房黒潮ライン』で太平洋岸を走って、本日の宿「三日月シーパークホテル安房鴨川」に到着する。途中撮影したり景色を眺めたりしていたので、宿到着は6時を過ぎていた、オフシーズンなので貴賓室が空いていたので、温泉に浸かり、広々とした部屋でのんびりと過ごし名物らしい和洋中バイキングで夕食。

「千葉にこんな所があったなんて知らなかったです」

と陽菜は喜んでいる。


 翌日はゆっくりと朝食を食べて、出発、太平洋に沿って進み勝浦、九十九里で銚子方面に、名所の『犬吠埼灯台』を見て、本日のホテル『別邸 海と森』にチェックイン。今夜は陽菜のリクエストで銚子市内でお食事をする事になる、タクシーを呼んでもらって市内に向かい、『銚子ポートタワー』に登ってみる。

「子供の頃、父に連れられて良くここに来たんです……と言うかここしか連れて来てもらえませんでした」

そう言って陽菜は寂しそうに笑った。

 その後は、陽菜のお勧めの店があると言う『外川町』と言う所に行く、どうやらこの町が陽菜の生まれた町の様だ、そして『かめ屋』と言ういかにも町の食堂の様な店に入る。

 店に先に入った陽菜に、女将さんが

「いらっしゃ……まぁあんた陽菜ちゃん、綺麗になって」

と声をかけて、次に敬純を見て一瞬固まり

「健一?どの面下げてこの町に戻ってきた」

と言う

「おばさん違う、この方は私の勤め先の社長で、お父さんに似ているだけ、渋川さんて言うの」

「あら、そう言えば健一より老けている様な……あらすみませんね、勘違いした上に失礼な事を、どうぞこちらへおかけください」

と愛想が良くなった。

「敬純さん、ごめんなさい、あの言って無かったんですけど、私の失踪した父と敬純さんは似てるんです」

でも父が失踪したのは私が小二の頃なので、あまり記憶も無いんですけど」

「そうなんだ、まぁ世界には自分に似た人が三人は居るって言うからね、それで、この店はご家族で昔から来ていた店って事かな?」

「はい、ほぼ毎晩の様に来て、この端っこの席で、宿題しながら一人でご飯食べていたんです」

『すごいな、本当に今の時代の話じゃ無いみたいだ、昭和のドラマの世界だな』

と敬純は改めて感心した。

「はいどうぞ」

と、いきなり刺身とビールが運ばれてきた

「あれおばさん、まだ何も頼んで無いけど」

「ああ、陽菜ちゃんの好きな魚の刺身盛りよ、せっかく久しぶりに来たんだから、うちの料理全部食べていきなさい」

と女将さんは何やら上機嫌で、天麩羅、煮付けと色々と持ってくる。

「いや、しかしこれ美味いね、流石漁師町だな、葉山の定食屋も美味しいんだけどここも良いね」

 と食べながら敬純が言うと

「社長さん葉山の人なのかい、あんたも海の関係?」

と女将が聞いてくる。

「いや、僕は車屋です(もう引退しているけど)」

「あらそうなの、この子の父親の健一もね、元暴走族でやんちゃでどうしようも無かったんだけど、嫁を貰ってこの子が生まれてからは真面目に漁師をやってたんだけどね、変な商売を始めて失敗して行方不明になっちまってね……、ほらウチの旦那が今使っている鍋、健一が売っていた鍋なのよ。

『あー、アムウェイとかに嵌ったのか、田舎の不良は上下関係が厳しいから先輩に引き込まれたんだろうな』

と敬純は思った。

「私、小さい頃、父の運転するバイクに良く乗せてもらっていたんです、だから私も自分でバイクに乗りたいって思う様になって」

と陽菜は話した。

「そうか、それでお父さんに似てる僕に興味を持ったって事?」

「はい、最初はそうでしたけど。今はちょっと違います、私の先生と言うか……」

そこで陽菜は声を小さくして

「とっても大事な方です」

と言って笑顔を見せた。


「ご馳走様、食べ過ぎたかな、でも美味しかった」

と敬純は満足して店を出た、その横で陽菜が申し訳なさそうにしている。

「すみません、変な店に連れて来ちゃって、あのもう一軒だけ良いですか?」

 この時点で、もう敬純は予想がついている。そして連れて行かれたのはこの町に一軒だけ残っている

スナックだった。

「いらっしゃいませぇ」

 発音で、フィリピンかどこかの女性だとわかるホステスが数名、カラオケはなんと年代物のパイオニアのレーザディスクカラオケだった。客は地元の人らしい敬純と同年代かそれより上と言う感じの男性が二人だけ、二人とも敬純の事をジロリと睨んでくる。

 陽菜の方を見たママらしい40代位の女性が

「いらっしゃい、悪いけどウチは今募集はして無いよ、あら、なんだ陽菜かい、帰ってくるなら電話くらいしなさいよ……、え、まさか健ちゃん?」

 近づいてきて陽菜にそう言った後で、陽菜の後ろに居る敬純に気が付いてを驚いた。

元奥さんがそう思うのだからよっぽど敬純はその健一と似ているのだろう。

「違うわよ、電話でも言ったでしょ、お父さんに似た人に逢ったって、この方は私が今お世話になっている会社の社長さん、お父さんより15は歳上だから」

「そうね、良く見ると、あの人より品があって渋いわね、陽菜あんたちゃんと仕事してるの?、前聞いた時は訳わからない事言ってたけど、まぁ良いわ、せっかく来たんだし座って飲んできなさい、社長さんも

こちらへどうぞ、お座りになってくださいね」

と席に通された。

「あの人がお母さんなのね、でも陽菜にはあまり似てないねって事は、陽菜はお父さん似なのかな?」

「はい、そうみたいです、ガサツな母で申し訳ないです」

「でもあの感じだとまだ若いよね、もしかして陽菜はお母さんが10代の頃の子供かな」

「そうですね、18で私を産んだって言ってました」

『おーこれも昭和の不良って感じだな、面白い』

 そしてビールを2本飲んで、陽菜の母親と少し話をして……仕事の事や家族の事を聞かれたが

今は独身で子供ももう巣立っていると知ると少し安心した表情をした。

 水商売が長いから、敬純と娘の関係にすぐに気がついたのだろう。

「じゃあそろそろと」

 タクシーを呼んでもらい、会計を頼んだ。

「陽菜、伝票持って来て、場所覚えてるわよね」

と陽菜が席を外した時に

「私がこんななんで不束な娘ですけど、よろしくお願いします」

と母親は敬純に頭を下げた。

「はい、大事にしますから安心してください」

と敬純は答えた。

 

 ホテルに戻るタクシーの中で陽菜は

「騙し討ち見たいな事をして申し訳ありません、千葉にツーリングに行くと聞いてから、どうしても

母やおばさんに会って見たくなって」

「良いよ、楽しかったし、それに、お母さんから陽菜の事を頼まれたしね」

「え、いつの間に?」

「お会計の前、ちゃんと大事にするからって言ったら安心していたみたい」

「そうなんですね、ありがとうございます」

そう言って陽菜はいつもの様に、敬純の方に頭を乗せて、指を絡めてくる。

 

 ホテルに戻って、部屋の露天風呂に二人で入って、まぁあとはいつもと同じパターンだ。

最近寝る時は敬純は上半身は裸で寝ている、これは陽菜のリクエストで、陽菜は下も脱いで欲しいと言って来たのだが

「ジジイは足が冷えると寝ている間に足が攣る」

と言ってジャージのパンツだけは履いている。陽菜の方は、前はオーバーサイズTシャツを着ていたが、今はそれも着なくなって裸で寝る様になった。肌の温もりが好きなんだそうだ、そして、最近は敬純が頑張ると言うよりは陽菜が『トビウオ女子』と化しているので夜の営みが少し楽になった。

 

 翌朝は地元の食材を豊富に使った豪華な朝食を食べて出発。今日は敬純チョイスの場所を回る予定で、まず『鹿島神宮』、ここで『勝利祈願』と『旅の安全祈願』をした、そして『香取神宮』、ここでは『交通安全祈願』特に北海道へはフェリーで行くので『海上守護』祈願をする。それから『柏の社オートバイ神社』……歴史ある伝統的な神社では無いが『二輪ライダーの安全祈願』で有名なので、一応寄ってみた。まぁ動画のネタとしては御神体がバイクの石像なので面白いと思ったからだ。

 陽菜は

「ここ本当に御利益あるんですか?」

と疑いの目をしながら、絵馬に何か書いて奉納していた様だ。何を書いたかは教えてくれなかった。

 この神社では、平日なのにバイクで来ている人が沢山いて、ファンの人も居た様で、陽菜はすぐに『ゆかりん』だとバレて囲まれていた。

 陽菜と敬純は、ほぼお揃いの格好をしているし、敬純と陽菜の父親が似ている、陽菜は父親似という事で敬純と陽菜は顔立ちが似ていると言う事になる。

「あの一緒に居る人、お父さんですか?」

とファンに言われて、陽菜が仕方なく頷いているのが面白い。モトブロガーで父親と良くツーリングしている女性もいるし、この歳の差なので、そう思うのが普通だろう。

 まぁ敬純は自分の動画では顔を出していないし、そもそも登録者が少ないので、普通の人は誰も知らないと言っても良いだろう。

 

 帰りは、常磐道から首都高へ入り湾岸線経由で葉山に戻ると言うコースだ、これで二日間で500kmほど走った事になる。


「どう疲れた?、結構長距離走ったからね」

帰宅して陽菜に聞くと

「いえ、全然R25 と比べるとずっと楽です、もっと長距離でも大丈夫です」

と陽菜は至って元気だが、敬純はそうでも無い。

『若いと言うのは良い物だね、いや自分が歳なだけか』

と思いながら、

「僕はいつもツーリングとかから帰ると温泉行ってマッサージしてもらうんだけど、陽菜はどうする?」

「一緒に行きます……あ、でも男女別なんですよね、混浴なら良いのに」

と、意味不明な発言があったが、二人で敬純がいつも行く茅ヶ崎の『竜泉寺の湯』に行く。

 例によってタイ古式マッサージを受けて……今回は2泊だったがどちらの宿も良い温泉があったので

疲労はあまり溜まっていない様だ。

 そして、風呂の後は夜のお食事、銚子の魚も美味しかったが、相模湾の魚もやはり美味しいと敬純は思った。

 そして陽菜は

「なんか私の事色々とバレちゃいましたね、嫌いになってませんか?」

と聞いてきた。

「なんで?、嫌いになる要素が無いよ、陽菜のお母さんにも約束したし、ずっと可愛がってあげるから」

 敬純がそう言うと陽菜は少し涙目で喜んでいる。

「北海道は再来週だから、それまでに1000km走って慣らし運転を終えて、初回点検を終わらせないとね、明後日はまたツーリング行こうか?今度は日光方面はどうかな?」

「良いですね、行きます、バイクの調子も最高だし、敬純さんと一緒ならどこでも付いて行きます」

と言う良い返事が返って来た。

「こら、毎晩は無理だって言っただろう」

今夜も素直には寝かせてくれないらしい。 



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