第22章 帰国
第22章 帰国
予選出場順位を決めるPracticeは3時からなので、それまでサーキット内を散策する事にした。
日本のサーキットと違って『焼きそば』などの屋台は無いがピザやパニーニ、フルーツ等の屋台はある。
ランチはVIP席でも提供されるし、DUCATIのホスピタリティテントでも食べられるが、今日はまだ空いているので、パドックの外で食べる事にした、明日以降は混雑し過ぎて、パドックから外に出ると大変だからだ。
「このサンドイッチシンプルなのにすごく美味しいですね」
とハムとチーズとチャバッタに挟んだだけのパニーノを食べながら陽菜が言う
敬純も家のランチに何回か作った事があるのだが、やは本場イタリアのチャバッタとプロシュットやモッツァレッラとは味が違うので、ここまで美味しい物を作るのは難しいのだ。
そして敬純は、この地方の名物の『ピアディーナ』(イタリア風ラップサンド)を食べている。
具は『Rognone di vitello』(仔牛の腎臓)の煮込みとCicoria炒めだ、少し癖があるので
陽菜は一口食べて
「うーん、パス」
と言っている、日本の某魚の干物と同じで、慣れれば美味しいんだけどね。
しかし、イタリア人は本当に陽気で、すぐに陽菜に声をかけてくる。
『Mi manca il tuo sorriso e mi mancano i tuoi occhi meravigliosi』
なんて言われて、翻訳アプリの日本語訳を見て陽菜は笑い転げている。
「いや、マジでありえないから」
と言う評価の様だ。
またパドックに戻って、少しのんびりしてPracticeを観戦。
トップ10に地元イタリアの選手が5人入って盛り上がっている、イタリア人トップは72番、Aprilia Racingの『MarcoBezzecchi』選手だ、そして93番がやはりトップ、不調だった63番は四位でまずます、敬純の推しの5番は惜しくも十一位、前回のレースで三位に入って復調したかと思った23番の
Enea Bastianini選手は十七位と言う寂しい結果になってしまった。そして唯一の日本人79番小椋選手は二十一位、こう書くと遅い様だが、トップからは1.2秒しか離れていない、それだけレベルが拮抗していて熾烈な争いと言う事になる。
また広報さんにホテルまで送ってもらって、休憩してから夜の食事に、基本的にイタリアは夕食の時間が遅めで、レストランは8時位から開く所も多い。
今夜のはサプライズで『Hashimoto ristorante giapponese madrelingua 』と言う寿司とラーメン、カレーが食べられる日本食のレストランへ。
不思議な事に世界的に広まっているアメリカン寿司もあるが、普通の寿司もある変わった店だ。
「寿司屋さんあるんですねぇ、驚きました」
そろそろ和食が恋しくなっていた陽菜は喜んで寿司を食べていて、ちなみに敬純はラーメンと餃子にビールで、前回に来た時にはカツカレーを食べた記憶がある。
こんな感じで土曜日、日曜日と楽しくレース観戦をして、ちなみにスプリントレースの優勝は72番、メインレースの優秀は93番だった。
「凄い熱気でしたね、なんか感動しました」
「ここがMotoGPで一番盛り上がるサーキットかな? イタリアはもう一ヶ所『Mugello』って言うサーキットでのレースを有るんだ、あっちも盛り上がって楽しいよ、今年はもう終わってしまったけど」
「そうなんですね、来年行けたら良いですね」
とホテルまで送ってもらって、ここで広報さんとお別れ。
「ありがとうございました、色々と助かりました」
「こちらこそ、楽しかったですよ、映像と画像は後ほどクラウドの方にアップしておきますので、お使いください」
敬純は広報さんに少し待ってもらって、サン・マリノで購入した
『San Marino Jinja White Wine』と 『San Marino Jinja Red Wine』のセットを
「僕が飲んで美味しかったので、どうぞ」
広報さんに渡した。
翌朝、軽い朝食の後ホテルからEmirates航空の送迎サービスの車でボローニャ・ボルゴ・パニゴーレ空港まで、一時間半位のドライブになる。車は『Maserati Quattroporte』だった。
フライトは来た時と同じ様にドバイでトランジットして、羽田までのフライトになる。
長いフライトを終えて……ファーストクラスとは言え、それなりに疲労感がある、羽田到着は火曜日の夜11時を過ぎている。
「楽しかったですけど、疲れましたね」
「うん、ヨーロッパは遠いよね」
Emirates航空の送迎サービスの車内で、そんな会話をしながら葉山の家に着いたのは火曜日の深夜と言う事になり、そのままシャワーだけ浴びて就寝。
翌朝、敬純が目を覚ますと、陽菜は朝食の準備をしながら、既にスーツケースから汚れ物を出して洗濯を始めていた。
久しぶりのご飯と味噌汁、干物を焼いた純和食になった。
「私はやっぱり和食が一番です」
「時差を治す為に今日は外に出ないとね、後で海岸沿いを散歩しよう」
時差解消にはとにかく日光を浴びる事だ、敬純はこれを経験上学習しているので、無理にでも外を歩く事にしている。
「はい、嬉しいです」
「来週末はモテギのレースに行くから、体調を整えないとね」
「はい」
書斎でメールの確認をすると、Ducati Japanからパーティの招待が届いていた。
『MotoGP Meet & Greet Ducati Official Club 25周年記念』が東京のイタリア大使館で開催されると言う事だ。
同じ様に陽菜もメールのチェック等をしている……ちなみに今朝はシースルーのセーラ服見たいなコスプレをしている。
「え、うそパーティ?イタリア大使館?」
と狼狽えている。
「僕はスーツがあるけど、陽菜はドレス持っているのかな?」
と思った敬純は陽菜に聞いてみる。
「え、ドレスですか?そんな物持ってません」
と即答だった。
「そうか、じゃ買いに行かないとね」
「はい、でも私、そういうの全然わからないんです」
「大丈夫、なんとかなる」
とりあえず敬純も陽菜も重要そうなメールは他には無いので、着替えて、陽菜の車で……陽菜はまだ、ボーっとしているので敬純がドライブする……目的地は家から近い『森戸海岸』だ、パーキングに車を止めて、海岸を散歩する。
陽菜は当然の様に敬純の腕を取ってくるが
『うーん、これだと体の不自由な父親を介護する娘って言う絵だな』
と敬純は自嘲した。
「敬純さん、何か楽しそうですね」
「あ、いやちょっとね」
「どうせまた、仲の良い親娘に見られるかなとか思っているんですよね」
「ああ、まぁそんな感じ」
「私、親娘と思われるの本当は嫌なんです、もう彼氏だってLive配信で宣言しちゃおうかな」
と敬純の腕を強く掴んできた。
のんびりと葉山マリーナまで歩いて、『Marlowe 』でランチと言うかカフェタイム
陽菜はプリンと良くわからないソーダをオーダー、敬純はサラダとラテ。
「ここも気持ち良いですね」
「うん湘南の良い所かな、時差解消には最高でしょ『太陽がいっぱい』だ」
「え、なんですかその変なフレーズ」
「あれ、知らないフランスの有名な映画『太陽がいっぱい』、『アラン・ドロン』が格好良かったな」
「それ誰ですか?」
「あ……うん、まぁ昔のフランスの映画俳優、確か去年死んじゃったけど」
「そうなんですか」
『うん、まぁジェネレーションギャップと言う奴だな、当然だ』
また海岸を歩いてパーキングまで戻って、家に帰り、届いてたパーツで、まだ撮影で乗っただけの『Streetfighter V4SP2』二台をガレージでモディファイ、取り付けたたのは『エンジンスライダー』と
フロントとリアの『アクスルスライダー』どちらも万が一スリップダウンした時にダメージを抑えるパーツだ。バイクには『転ばぬ先の杖』は有効なのだ。
その間、陽菜は洗濯物を畳んだり色々と家事をしてくれている。
「お茶をお持ちしました」
とコーヒーをガレージまで持って来てくれるのもありがたい。
「伊豆の別荘にリフォームが終わったら、このバイク達は向こうに持って行くんですよね」
「そうだよ、これで長距離を走るのは辛いからね、別荘からなら、楽しい道を色々と走れる」
「楽しみだなぁ、いつ終わるんですか?」
「来月かな? 紅葉はもう終わっていて少し寒いかもだけど、まだ走れると思う」
整備を終えて書斎で色々と、膝の上に乗ろうとしてくる陽菜に
「こら、編集作業しなさい」
と言って、Webでリサーチ。
とりあえず明日泊まる日比谷のホテルは確保。
元妻とも何度も泊まった事もある『ザ・ペニンシュラ東京』、部屋は『グランドプレミアスイート』にした、ちなみに元妻と止まったのは普通の部屋だ。
陽菜のドレスを買う店も調査、こんな時に昔元妻に無理やり付き合わされたブランド物の買い物の知識が役に立ったのは『禍を転じて福と為す』だ。
そして、母の遺品を整理した時の住所録から、家に出入りしていた呉服屋さんを調べた。
敬純の子供の頃の記憶だが、毎年シーズン毎に呉服屋さんや帯屋さんが家に来て、反物などを母に勧めていたシーンを覚えていたからだ。
電話をして、名前を告げると
「鎌倉の渋川様でございますか?」
と聞かれたので
「はい、母が生前はお世話になりました、実はですね……」
と言う事で、陽菜の成人式用の振袖一式をオーダーしたい事、ただし敬純も陽菜も和服の知識は全く無いと正直に伝えた。
「かしこまりました、では明後日の午前中待ちしております」
と言う事で、アポイントを取った。
そう言えば、山の様にあった母の着物や帯はどこに?と思いだしたが、確か全部弟の妻が『私が処分いたします』と持っていった事を思いだした、敬純は全く興味が無かったのでその通りにしたが、良く考えるとかなり高価な物もあったのではないかと今更思った。まぁどうでも良いが。
翌日昼過ぎに葉山を出て、ホテルのある日比谷に、車は陽菜のMINIだ。
「GT-Rで都内の渋滞を走りたく無いからね」
と言った、ものの、MINIは近所の買い物などにはちょうど良いが、少し遠出をするとやはり色々と問題があると思った。
元嫁は当然GT-Rに乗るのは嫌がり、BMW-M5に乗っていた、その頃は敬純はまだ自動車メーカーの社員で、工場の近くの『六浦東』に住んでいて、周囲には同じ会社の人達が住んでいたのから、周りから白い目で見られた物だった、日本の会社には不文律があり、社員の家族も自社の製品を使うのが当たり前と思われていたからだ、とりあえず今はそんな元嫁の気分が少しわかる敬純だった。
「うーん、車買おうかなぁ?」
「え? なんでですか?GT-R売っちゃうんですか?」
「あ、いやそうじゃ無くて……」
『この話は辞めておこう』
そう思って、敬純は話を変えた。
「ドレス、どんなのが良い?」
「え、うーん、わからないです、あそうだ、今夜東京に泊まるって言ったら、親友が会いたいって、あのお時間作っていただけますか?」
「ああ、良いよ、お買い物終わったら、あとは暇だし食事でもしてくれば?」
「いえ、敬純さんもご一緒に」
「え? あ、僕は良いけど邪魔じゃないかな? 積もる話もあるだろうし」
「親友には色々と敬純さんの事も相談していたんです、そうしたら一度紹介して欲しいって、良いですか?」
「良いよ、じゃ夕食は一緒にしよう、何を食べたい?」
「和食が良いです」
チェックインして夜の食の店を予約して、向かったのは『ヴェルサーチェ 銀座本店』
なぜここを選んだかと言うと、以前元妻にパーティ用のスーツを無理矢理オーダーさせられたのがこの店だったからだ、ただオーダーは無理矢理がったが、出来は良く敬純はそれ以降気に入って何度も着用して
今日もそのスーツを着ている。
お洒落に見えた方が店の人の対応が良いだろうと思ったからだ。
「素敵ですね、なんか別人みたいです」
と陽菜に言われたが、それは褒められているのだろうか?
まぁとにかくこの店で陽菜は赤いミニドレスを選び……これはWEBで敬純が良いなと思った物と同じだ、それに合わせて、パーティ用のミニバックと上に羽織るボレロも合わせて購入。
そしてヒールの靴を持っていないと言う事で『Salvatore Ferragamo Ginza 』でヒールのホワイトのパンプスを購入。
「後はアクセサリーだね」
「え? もう大丈夫です」
「いや、大使館のイベントだからそれなりの格好をしないと相手に失礼になる、ドレスコードみたいな物かな、男は楽だけど女性は大変だよね」
そんな訳で敬純の知識の中にあるアクセサリーの店『ブルガリ銀座タワー』に向かい、お店のスタッフのお薦めで『ディーヴァ ドリーム』シリーズのピンクゴールドとカーネリアンの組み合わせで、リング、イヤリング、ネックレス、ブレスレッドをセットで購入。最後に流石にスマートウォッチで行く訳にはいかないので、敬純の物とペアになる、でシンプルなブルガリ・ブルガリウォッチを買って終了。
歩き疲れたので『Bvlgari Ginza Bar』で少し休憩してからホテルまで戻る。
陽菜は今日購入した物を全部身につけて
「凄い、私じゃないみたい」
と喜んでいる。
「全部似合っているね、最高に綺麗」
と敬純が褒めると嬉しそうだ
「今夜のお食事、これ着て行って良いですか?」
「当然、お友達を驚かせてあげれば」




