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21:魔王様のお心を手に入れるために 〜サキュバスside〜

「もうっ、鼻持ちならないですわぁ!」

「ほんとほんと、何なんですのあの人間は!」

「陛下と仲良く甘々な新婚旅行を楽しんだんでしょうよ、あの花嫁ったら」

「許せないっ!!」


 魔王様が妃と魔国巡りを終えて共に戻られた数日後のある朝のこと。

 きぃきぃ響き渡る仲間のサキュバスたちの姦しい声に賛同しながら、ワタクシはため息を吐いていた。


 魔王城に帰還した妃は笑顔で、魔王様もいつもの氷のような視線を少し柔らかくしていたように思う。

 きっと魔王様は旅の道中、妃とたっぷりお楽しみになっていたことだろうと考えるだけで憂鬱になってしまう。


 まさか魔王様がそんなに単純な方だとは思わなかったが、魔国ではほとんどお目にかかれない人間を物珍しく、己のものにしたかったのかも知れない。

 などと考えつつ、サキュバス特有の黒い尾をゆらゆらと揺すり、黒い翼をはためかせながら小さく呟く。


「あの小娘をなんとか排除しなければ、いけませんわねぇ……」


 ワタクシの呟きは甘い桃色の吐息となって宙空へと消えていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 地位も高くなく頭が切れるわけでもない、さらにはワタクシたちと違って容姿の美しさの欠片もないというないない尽くしの平凡な小娘。

 それが当代の魔王、セオ様の妃となった人物、ベリンダ・パーカーズとかいう女だった。


 そんな女が魔王様の寵愛を受けるわけがないのはわかり切っていたが、なんとか彼女の方から魔王様を愛さないと宣言するという愚かなことをやらかしていた。

 人間の小娘の分際で、なんと生意気なことか。けれどおかげで魔王様は妃を嫌い、じきに離縁を言い出すだろう。そうなればワタクシが妃の座を奪えばいいのだ。

 そもそも、人間ごときに魔王妃が務まるものか。サキュバスの中でも身分の高いワタクシのような者こそが相応しいのだから。


 だのに魔王様は、妃を手放すことはなく、ましてや魔国の民に彼女を花嫁としてお披露目することを決定なさった。

 聞いた時は信じられなかったが、こうして今魔王様が不在であることが事実の全て。


 今まではあの妃を野放しにしてきたが、こうなればもう容赦はしない。

 ワタクシは魔王様が城へ戻られる前に策を練り、他の四人の上位サキュバスと手を組んだ。


 魔王様を奪うという点についてはライバルであるワタクシたち。しかし、いちいちくだらない争いなどは起こらない。

 サキュバスは魔族ほどではないが魔力を持ち、それで異性を魅了する。魔力が多ければ多いほど魅了の力は高まる。


 五人のうち一番魔力が多いのはワタクシであり、現在の妃を退けた後にワタクシが正妃の地位に収まることは確かだからだ。他四人は側妃になる。

 ワタクシが本気になって誘惑し続ければ魔王様とて堕ちてくださるだろう。本当は今すぐにでも魅了したいが、ワタクシの魅了魔法でもそれなりの時間がかかるので仕方ない。


 それより先に、やるべきことは多くある。

 魔王様と妃がさらに深い仲にならぬよう監視するために城に二人のサキュバスを残し、ワタクシを筆頭としたサキュバス三人は翼を広げ、ひっそりと魔国を飛び立った。


「きゃはは! 今頃、きっと妃は自分がこれからどんな目に遭うかも知らず、呑気に寝ているでしょうねっ。ああ、あの顔が恐怖に歪んで『助けてください』って泣き縋るのを想像するだけでゾクゾクしちゃう!」

「しーっ。声が大きいですよ」

「さあさあ、魔王様に気づかれないうちに離れますわよ」


 サキュバスはあまり遠出が得意ではない。長時間飛ぶことが苦手だから。

 でもワタクシたちはやる気に満ちていた。あの妃を蹴落とせるのだから、当然だった。


 ――全ては魔王様のお心を手に入れるため。


 ワタクシたちは皆、嗜虐的な笑顔を浮かべていた。

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