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もうひとつの顔

「母......さん?」


 目の前の光景が信じられなかった。今、確かに首を切断されたはずの母さんが目の前に立っていたからだ。


「本物......なのか?」


「さっきも言ったけど本物よ? ほら、この身体中から湧き出してくるアルへの愛のフェロモンが今にもアルを虜にしようと震え上がっているでしょう? これが本物だという証拠よ」


 ごめん、何を言っているのかまったくわからないしわかりたくもない。

 

 だけど、これは本物の――


「なんでや! なんでまだ生きてるんや!?」


 聞こえてきた叫び声に顔を向けると、オシリスが驚愕したかのような表情で声を荒げていた。


「アンタは今そこで殺したはずや! その証拠にちゃんとそこに死体が――!」


 オシリスが母さんの首を切断した場所を見ると、そこに母さんの死体は無く、それどころか何も存在していなかった。


「......は?」


 そして再び前を向いたとき、先程投げ飛ばした二人の黒ローブはサラサラと砂のように崩れさった。


「なんや......? 何がどうなってるんや?」


「......もしも相手が力業で動かせぬなら、相手に動いてもらえばよい。そのために相手に気づかれぬよう影に潜み、傀儡のように操る......。それが我々――"影の傀儡"だ」


 セロのその言葉に、オシリスはハッとした顔をした。


「......まさか」


「そう、貴方は全てこの子達の予定通りに動いてくれたというわけよ。まさか自分の教え子に助けられる日が来るなんて......ね」


 母さんは黒ローブ達を見回しながらそう言って微笑んだ。


「ありがとう貴方達、助かったわ」


 母さんの言葉に感極まったのか、何人かの黒ローブから鼻をすするような声が聞こえた。


 いや、どんだけ慕われてるんだよ母さん......。


 俺が母さんを見つめていると、母さんも俺の方を見つめ返してきた。


「アル、貴方はやられっぱなしでいいの?」


「......それは」


「この状況であの男に決定打を与えられる可能性があるのは貴方しか居ないのよ?」


 それはわかっている。わかっているが、先程簡単にあしらわれた俺がオシリスに勝てるとは思えない。


「でも、俺じゃ......」


 俺の言葉を遮るように、母さんは俺に顔を近づけ、耳元で囁いた。


「倒そうなんて考えなくていいわ。時間を稼いでくれればいいの」


 時間を稼ぐ......? いや、でもそれにしてもやっぱり俺には――


「出来ない何て思っちゃ駄目よ、アル。諦めたらそこで試合終了なのよ?」


「いや、試合って――」


「大丈夫、貴方なら出来るわ」


 言葉を遮るなよ。ゴリ押しダメ、絶対。


 でも、少し気が楽になった気がする。恐らくわざとこういうことをしているのだろう。


「それに、私が少し力を貸してあげるわ。絶対に大丈夫よ。母さんを信じて」


 確証の無い言葉のはずなのにとても安心した。そして、母さんの言うとおり絶対に大丈夫なんだろうなと思えた。だから、


「わかった、やるよ」


「偉いわ、後でハグしてあげる」


 それはいらない。ってかやる気下がるからやめてくれ。


「それじゃあ早速――」


 母さんはキリッと真面目な顔になると、俺の右手を持って、それを両手で包み込んだ。


「我は神召の巫女なり。天よ、どうか我が願ひを聞き届けるならば、その力を現世に落としたまへ。さて、糧とさせたまへ」


 母さんの言葉に答えるかのように、暗くなった空の一点がキラリと輝いた。


神成かみなり」


 その輝きはまるで雷のように俺目掛けて落ちてきて、俺に直撃した。


「っ.......! これ......は......!」


 体中から凄まじいほどの力が湧いてくる。まるで、善神様から力を受け取ったときのように。


 これなら......いける。


「アンタ......一体何者なんや......?」


「私? あっ、そういえばまだ自己紹介がまだだったわね」


 母さんは口元を押さえてクスリと笑ったあと、姿勢を正した。そして


「あるときはこの子の母親、またあるときは影の傀儡の隊長、そして――元、次期神召の巫女ダントツNo.1候補だった、神に愛されし聖女ルシカ・ウェインよ」


 最後初耳だわ。色んな面ありすぎだろ。


「ふざけるのも大概にしろや!」


 まずは母さんを倒すことに決めたのか、オシリスは母さんの方へと飛びかかってきた。だが、母さんはその場から動かずに顔と視線を俺の方に向けていた。


――俺にやれってことか......。いや、でも今なら――


「出てこい!」


 前の感覚を思い出して地面に手で触れながら叫ぶと、大量の黄金のツタが出現し、オシリスが母さんに殴りかかる直前に、ツタが母さんの前にまるで壁のように並んだ。


 ゴンッ! と鉄を殴るような音が響くだけでツタはビクともしなかった。


次いで、すぐに壁のようになったツタを動かし、オシリスを束縛するように指示したが、オシリスはそれを察知してすぐに後方に退いた。


「ちっ......憑き物フラワシなんてもん使えるんか」


「そのフラワシ? ってのが何なのかは知らないけど......」


これを使って時間稼ぎ、全力でやってやろうじゃないか。

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