逆転の一手
首飾りの事に気付いたのはついさっきのことだった。
テスタに蹴り飛ばされて地面に倒れたとき、首飾りが俺の視界に入った。
この首飾りの効果が少しでもあれば、リンクさんの魔法も効くようになるかもしれない。
そう思った俺は、避けられるような攻撃をわざと連発し、リンクさんの近くまでテスタを誘導した。
その後、隙を見て倒れているリンクさんに視線を合わせ、アイコンタクトを取ってみた。
それが通じるかどうかは賭けだったが、リンクさんはどうにか察してくれたようで、魔法を使ってくれた。
「ぐ、あああああああああああッ!!?!!」
リンクさんの魔法と飾りの効果が重なり合い、テスタは徐々にイルビアの体から引き離され始めた。
「離せ! お前さえ離れれば――!」
乱暴に足を動かすテスタだったが、リンクさんはテスタの足にしがみついたまま離さなかった。
「離しませんよ……。貴方とアルさんの妹さんが分離するまではね……」
「ならお前を殺――!」
「させるか!」
テスタがリンクさんに攻撃しようとするが、俺はテスタを押さえてそれを防いだ。
「クソッ! 邪魔をするな!」
テスタは俺を振りほどこうと力を入れたが、それが叶うことはなかった。
「ぐっ……! その状態で、まだ俺を抑えるほどの力が残っているのか……!」
そう言ってテスタはもっと力を込めたが、それでも強烈な攻撃を繰り出した身体とは思えないほどに、テスタが俺を振りほどこうとする力は弱かった。
「いや、俺に力が残ってたんじゃない。ただお前の力が弱くなっただけだ」
「な、に……?」
表情が驚愕で染まったテスタの身体からは徐々に力が抜けていき、やがて立つことも難しくなったのか、テスタは足元がフラフラし始めた。
「ク……ソ、こん、な……事が……! あって、たまるか……! 俺、は…………!」
言いかけて、イルビアの体から禍々しい霧が一気に放出され始めた。
「あ、がぁぁぁあぁああぁああぁああ!!!」
テスタは苦しげな表情を浮かべながらも、最後の抵抗と言わんばかりに、リンクさんの方へ手を伸ばそうとしていた。
だがそれが叶うことはなく、霧の放出が収まると同時に、イルビアの腕から力が抜けた。
そしてそのまま、イルビアの身体が俺の方へもたれかかるように倒れてきた。
「イルビア、大丈夫か!?」
咄嗟にイルビアを受け止めてそう訪ねると、イルビアはゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「……お兄、ちゃん?」
「イルビア……! 良かった……!」
「むぐっ!? ちょ! お兄ちゃん!?」
感激のあまり俺はイルビアを抱き締めた。イルビアから抗議の声が聞こえたが、今の俺はそれを聞く気にはなれなかった。
「はは……。どうやら、上手くいったみたいですね……」
リンクさんはヨロヨロと立ち上がりながらそう言い、笑みを浮かべた。
「妹さんが助けられて良かったですね」
「はい。リンクさん……本当に、ありがとうございます」
「お兄ちゃん! そろそろ離して!」
「あっ、悪い」
これ以上抱き締めていると本気で怒られそうなので、俺はイルビアを放した。
「まったくもう! 助けてくれたのは嬉しいけど、まだ終わってないんだから油断しちゃ駄目だよ!」
「そうだった……! テスタは……!?」
周囲を見渡して見ると、先程イルビアから出ていった霧が一ヶ所に集まっており、やがてそれは人の形となり、テスタへと変化した。
心なしか苦しそうな表情をしていたが、それでもその表情からは余裕が消えていなかった。
「へっ……! ここまでやられるとは思わなかったぜ……。流石アルだな……」
『だが』とテスタは付け足し、
「イルビアの身体を取り戻すのは簡単だ! さあイルビア! 『首飾りを壊してこっちに来い』!」
「ーーしまっ!!」
俺は今、テスタは自身の力を持っているイルビアに命令が出来るということをすっかり忘れていた。
だがもう遅い。テスタの命令を既にイルビアは聞いてしまった。
俺は咄嗟にイルビアを止めるために腕を掴んだが、イルビアは特に抵抗しなかった。
「イルビア……?」
「大丈夫。だから安心して、お兄ちゃん」
そう言って、イルビアはテスタの方へ視線をやり、
「テスタさん。私はもう、貴方の命令には従わない!」
そう言い放った。




