怪しい場所
シルス村のすぐ近くにある森。その中を俺とテスタは歩いていた。
「まったく……いきなり一人だけしか案内しないとか言うから驚いたぞ」
俺の言葉に、テスタは頭を掻きながら、
「悪いとは思ってるよ。でも仕方ないだろ? こうするしかないんだしさ」
「……そうだな」
『案内するのは一人だけでお願いします』
その言葉に、俺達三人は唖然とした。
「ど、どうして? 皆で行った方が安全だし、確実だと思うよ?」
ルリが会話に口を挟むと、テスタはそれに頷いた上でこう言った。
「はい。確かにそうだと思います。ですが、実を言うとその場所は怪しい気配を感じるだけではなく、一人の女性が立っているんです」
「女性が……?」
女性……か。そんなところにずっと居るなんて確かに怪しいが……。
「……なあテスタ、その人が居るのと全員で行っちゃいけないのに何の関係があるんだ?」
「実は、俺は何度かその人と話そうとしたんだ。ずっとあそこに居られても不気味だし、何か理由があるなら知りたくてな。でも、あの人はどれだけ話しかけても一向に反応してくれなくて、こっちを一瞬見たかと思ったらすぐに振りかえっちゃうんだよ」
「なるほど……それで?」
「同じ女性なら何かわかるかもしれないと思って、理由を話して村の女性に何人か着いてきてもらったんだけど……そのときは何故かこちらを見た瞬間に魔法を打って威嚇してきたんだ。そのせいでみんなすぐに逃げ出しちゃったし、村長からはしばらく森に立ち入るなって禁止令を出されちまった。でも、何となくだけどわかるんだ。あの人はまだあそこに居る。邪神についても何か知っているかもしれない」
だけど。と言ってテスタはさらに話を続けた。
「また彼女を刺激して威嚇されたら話を聞こうにも聞けない。だから、出来るだけ彼女を刺激しないようにしておきたい。でも、刺激した原因が人数が多かったせいなのか、それとも女性を連れていったからなのかはわからない。だから、この中から"一人だけ"……というか、アルだけを案内したいと俺は思ってる。多分それが一番彼女を刺激しない可能性が高いからな」
「そういうことか……」
「ああ。納得してもらえたか?」
「……まあ、そういうことなら仕方ないだろうな。皆もそれでいいか?」
三人は不安そうな表情をしていたが、状況が状況ということもあり、頷いてくれた。
「……で、あとどんくらい歩けば着くんだ?」
「んーと、あと少しだな」
「そうか。……そういやここ、懐かしいな」
「ん? おお、言われてみりゃそうだな。小さい頃よくここら辺で遊んでたっけ」
そう言ったテスタは懐かしむような表情をしていた。
「今向かってるとこも、お前にとっては懐かしいところだぞ? この先にある開いた場所……覚えてるか?」
「えっと……ああ。あそこか。覚えてるぞ」
「そうか。なら、ここからは一人で行ってこい」
「は?」
「さっきも言っただろ? 人数が問題だった可能性もあるって。もしかしたら二人以上で行くと彼女を刺激してしまうのかもしれないし、道を覚えてるならお前一人で行った方が良いと思うんだ」
「……わかった。先に戻っててくれ」
「おう。気を付けろよ」
三人の方へ戻っていくテスタの背から目を離すと、俺はゆっくりと足を進め始めた。
植物が生え茂り、記憶よりちょっと険しくなった道を歩き続けた俺は、遂にテスタに言われた場所に辿り着いた。
そして、そこに居たのは……。
「……ついに来たんだね。お兄ちゃん」
見間違えるわけもない。俺の妹であるイルビアだった。




