鬼ごっこ(ただし捕まったらバットエンド)
馬車に乗って、ゆっくり流れていく景色を見ていると、リネアが俺に声をかけてきた。
「アルさん、一つ聞きたいことがあるんですが」
「ん? 何だ?」
「例えの話として、この馬車がガル街で行くとします。その場合はどれくらいでガル街に着くのでしょうか?」
「えっと……ちょっと待ってくれ」
確か王都からガル街までは200km……歩いて一週間くらいの距離だったよな……。
この馬車は確か途中の中継地点で他の馬と変えるらしいから、馬自体の休憩は要らないとして……1日100km前後ってところか? そう考えると……。
「2~3日あれば着くんじゃないか?」
「そんなに早く着くんですか?」
やや驚いた様子でリネアはそう言った。
「でも、わかってるとは思うけどこの馬車はガル街行きじゃないから、50kmくらいは自分達の足で歩かなきゃいけないんだ。それを踏まえたらガル街に着くのは2~3日後くらいだろうな」
「なるほど、わかりました。教えてくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
話が終わったので窓の外を見ると、たくさんの木々が視界に広がった。どうやら森に入ったようだ。
あれ? 馬車って森に入っても大丈夫だったのか? 魔物とかに遭遇したら危なさそうだけど……。
気になった俺は、馬車を操縦している人に声をかけた。
「すみません。馬車で森の中に入るのって大丈夫なんですか?」
「ああ。それよく聞かれるんだけどね、この森は比較的魔物が少ないし、出てくるにしても弱い魔物ばかりだ。後ろから出てきたらこの馬車の速度なら降りきれるし、前から出てきたら私の魔法で倒してやるさ」
「なるほど」
随分と頼りがいのある返事が返ってきたので、俺は安心して再び窓の外を見た。
たくさんの木を通りすぎていく中、一瞬見覚えのある魔物が見えた気がした。
「…………いやいやいや」
「どうかしましたか?」
「なんでもない。いや、でも……」
まさかこんなところに居るわけがない。俺はそう自分に言い聞かせながら窓を開けて後ろを確認すると――。
こちらに向かって全力疾走しているオークの姿が見えた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「アルさん!?」
「お客さん!? どうしたんだい!?」
俺の絶叫を聞いたリネアと操縦者さんが、バッとこちらに向き、焦った様子で俺に声をかけてきた。
「お、オークが、後ろに、全力疾走で……」
「ああ、オークか。それくらいなら馬車で振り切れから安心しな――って、嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!!」
「一体何が……ッ!?」
操縦者さんとリネアが後ろを確認した瞬間、表情が変わった。
そんなにオークの速度が速かったのか? もしかして追い付かれそうだったりして……。
恐る恐るもう一度後ろを確認してみると――数えきれないオーク達が大群でこちらに押し寄せて来ていた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! この森、魔物の数が比較的少ないんじゃなかったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!?」
「ああそうとも! 本来は少ないはずだ! こんなにオークが押し寄せてくるなんて滅多に無いことだ! 一体どうしてこんな大勢で……! そんなに魅力的な獲物に見えたのか!?」
あ……。うん。その獲物って多分俺の事だわ。
「アルさん、目が死んでますよ」
「あはは、俺、オークを呼び寄せる体質なのかもしれない……。オークホイホイとして商業展開しようかな……」
「アルさん、アルさん? 落ち着いてください。目が死んでますよ」
「よっしゃー。オークホイホイでお金ガッポガポだー……」
「アルさん、これ以上ないくらい目が死んでます」
「お客さん! 私も追いつかれないように全力で頑張りますから! お客さんも気を確かにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
ガタゴトガタゴトと揺られる車内の中、俺は力無く揺さぶられ、リネアはこの人はもう駄目だと言いたげな目をしていた。
森の出口まではまだまだ距離がある。オーク集団との追いかけっこはまだ始まったばかりだった。




