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街の状況

 なんとか衛兵の誤解を解いたが、いきなり依頼を受けたことを後悔するところだった。


「あれ、捕まってたら冗談じゃすまなかったぞ……?」


「大丈夫です。冗談と本気の境界はちゃんとわかっています」


「捕まりかけるのは冗談で済むのか!?」


「はい」


 何の迷いもなく肯定したぞこの子……。


「……まあいいや。で、依頼の話なんだけど、街がおかしいっていうのはどういう事なんだ?」


「実は、その……街の皆さんが狂ってしまったんです」


「狂ってしまった? 具体的にはどんな風に?」


「すみません、それについては説明しずらいので、実際に私の街まで来てほしいです。そうすればわかると思います」


 なるほど、言葉に出来ない違和感ってことか……?


「わかった。じゃあそれは着いてからってことにするか」


「……え?」


「え?」


 何で意外そうな顔をしてるんだ? 俺、もしかして変なことでも言ったか?


「私には必要最低限の情報すら無いのに、どうして信じてくれたんですか? 私が変なことを言っていたり、騙している可能性があるとは思わなかったんですか?」


 そういうことか。確かに普通の人が聞いたなら『情報が少なすぎる』とか『ふざけてる』等と言って断っていたかもしれない。


 でも、俺は少しだけではあるけど、この子の事を知っている。


「君はボロボロに汚れて、ついには疲れて倒れるくらいにまで頑張ってここまで来たんだ。そんな人の言葉なら本気で向き合ってあげたいと思っただけだ」


「……そうですか」


 女の子は少しうつ向いて呟くようにそう言った。


 納得してくれたようで何よりだ。


「ところで、ひとつ気になってることがあるんだけど、報酬に書いてあるお守りってのはどういうものなんだ?」


 俺が聞くと、女の子はつけていた首飾りを取り外して、俺の方に渡してきた。


「これと同じようなものです。先の方にペンダントのようなものがあるんですが、これは物によって様々な効果があるんです」


「様々な効果……?」


「例えば、このお守りの場合は邪気払いと精神安定効果があります。多分、私はこれのおかげで狂わなかったのかもしれません」


 精神安定か……。 もしかしたらそれがあれば……。あれ? 待てよ……?


「あのさ、もしかしてそれって周囲の人にも効果があったりするのか?」


「非常に効果範囲は狭いですけど、近くに居る人であれば効果はあります」


 じゃあ、もしかして俺が久しぶりに昼までぐっすり眠れたのはこの子がこのお守りをつけていたおかげなのか……?


 だとしたら、普通に考えれば報酬は少ないとはいえ、俺にとっては破格の報酬と言えるんじゃないか?


「よし、じゃあ依頼を達成したら俺はそれと同じやつが欲しいんだけど、大丈夫か?」


「え? あ、はい。大丈夫です」


 珍しくこの子が表情を少し変えて戸惑うところが見えて、俺は少し笑みをこぼした。


「……なんですか? 通報しますよ?」


「少し笑っただけで通報とか厳しすぎない?」


「冗談です」


 相変わらず重いジョークだなおい。


「……で、出発はいつにするんだ? 街が遠いところなら早めに向かった方が良いと思うんだが……。ってか、そういや街の名前聞いてなかったな。一体なんて街なんだ?」


「……ガル街」


「ガル街か…………ってガル街!?」


 思わず大きな声を出してしまった。


 ガル街ってここから200km以上あるらしいし、歩いたら一週間くらいはかかるぞ……。それを歩いて来たってことは……。


「……相当遠いところから来たんだな……」


「はい。だから、もう今すぐにでも出発――」


「いや、出発は明日にしよう」


 俺が遮るようにそう言うと、彼女は不安そうな表情を見せた。


「……でも」


「その疲れた身体じゃまともに歩けないだろ。それに、明日になればガル街までとは行かないが、途中の街まで乗せてくれる馬車が出るから、それに乗った方が良いと思う」


「……なら、そうします」


 ふぅ……説得できて良かった。でも、まだやるべきことが残ってるよな。


「よし、じゃあこれから君の服を買いに行こうか」


「……え? あの……」


「あと風呂にも入ってもらって、食べ物もそれなりに食ってもらわないと」


「私、今はお金無いんですが……」


 いや……流石に自分から言い出してそっちに金を払わせたりしないって……。


「金なら俺が払うから大丈夫だ。ほら、さっさと済まさないと休む時間無くなるぞ? 早くしようぜ」


 俺の言葉に彼女は溜め息をつくと、ボソッと何かを呟いた。


「…………お人好し」


「え?」


「なんでもありません。それと、私のことはリネアと呼んでください」


「リネアか。俺はアルって言うんだ。よろしく」


 俺が握手しようと手を差し出すと、リネアは俺の手を握り返した。


「アルさん、よろしくお願いします」


 そう言ってリネアは笑みを見せてくれた。

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