探索準備
翌日、言われた時間より少し早めにギルドに来たものの、まだ学者さんの姿は見えなかった。
あの人マイペースっぽいし、もしかしたら時間にルーズな人で、待ち合わせに遅れてきたりして――。
「あ! もう来てたんですねアルさん! お待たせして申し訳ありません!」
遅れるなんてそんなことはなかった。彼もまた少し早めにギルドに着くようにしてくれたようだ。
「いやぁ、昨日はすみません。何分、依頼を受けて頂けると思った瞬間に舞い上がってしまって自我を忘れてしまいまして……一人で一方的に話しただけになっていました……申し訳ないです……」
学者の男は、会って早々に頭を下げて謝ってきた。
「いや、大丈夫ですよ。俺も気にしてないので……。だからその……頭を上げてください」
「本当ですか!? ありがたいです!」
シュンとしたような表情だったが、顔をあげた瞬間、いきなり満面の笑みになった。
わかりやすいなぁ……この人。
「では、昨日は一方的に話してしまっただけですので改めまして、僕はリンクと申します。今日はよろしくお願いいたします」
礼儀正しく一度ペコリと頭を下げると、それではと言い。
「早速ですがレルゲ古代遺跡に向かおうと思いますので、着いてきていただけますか?」
「いいですけど……。俺、特に道具とか持ってないですし、遺跡探索する準備なんてほとんど出来てないと思うんですけど大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫です。何故なら直感がそう告げているので!!」
直感好きだなこの人。
「あ、でも食物は少し買っていきますよ? お腹が空いたら探索する効率が下がってしまいますから」
「なるほど、わかりました」
なんだ、そういうところはしっかり考えてるんだな。少し安心――。
「マジキチシャークの刺身でも買っていきましょうか」
「全力で却下します」
なんで生物を選ぶんだよ。
てか海から離れたこの場所にマジキチシャークの刺身なんかほとんど流通しねぇよ。
「そうですか……それなら果物でも買っていきましょうか」
「その方が良いですね」
この人なんで少しシュンとしてるんだよ。今までの探索はどうしてたんだよ……。
「それじゃ、遺跡に向かう途中に買うことにしましょう。じゃあ、いきましょうか」
「はい」
この人と会話が成立する。昨日のことがあったからか、そんな当たり前のことに感動しながらも、俺はリンクさんの後に着いていった。
まずは商店街に来ると、先程の会話通りに果物を買うことになった。
丁度知り合いの店があるということなので、そこで買うつもりらしい。
知り合いの店があるのなら、マジキチシャークの刺身とか言わずに最初からそこにしてほしかった。
リンクさんに着いていき、とある屋台の前までくると、リンクさんは店主に声をかけた。
「ギンおじさん、繁盛してますか?」
「おお、リンクか、久しぶりだな。稼ぎの方はそれなりってとこだな。そっちはどうだ? 研究は進んでるのか?」
リンクさんは気まずそうに視線を逸らし。
「まあ……ぼちぼちと言ったところですかね」
うーん……リンクさん、研究の方はあまり芳しくない感じなのか……?
「そうか、ま、頑張れよ。んで? 何か買いに来たのか?」
店主のギンさんもそれを察したのか特に追及はせず、話題を切り替えた。
「あ、そうでした。えーっと……」
リンクさんは陳列されている果物を一通り確認すると、ひとつの果物を指差し。
「これ2個ください。」
「おっ、ミチェか。お前がミチェを選ぶなんて珍しいな」
店主がミチェを手に取りながらそう言った。
ミチェか。確かイルビアもミチェが好きだったな。村でもミチェが作られてたし……。
あんな普通な女の子だったのに……どうしてイルビアは邪神側なんかに……。
「――ルさん? アルさん?」
「え?」
考え事に没頭していたからか、俺はリンクさんから呼ばれたことにに気づくのが遅れてしまった。
「あ、やっと気づいてくれましたね。アルさんは何の果物にします? 僕が奢りますから好きな果物を選んでください」
「ありがとうございます。じゃあ……そこのムルーンで」
「ムルーンか。中々わかってるじゃないか兄ちゃん。ムルーンは今が旬だから旨いんだ。で、リンクと同じ2個でいいか?」
俺が首を縦に振って肯定の意を示すと、店主は2個のムルーンを手に取った。
リンクさんはその間に代金を用意すると、店主が果物を用意しおわると同時に代金を支払い、果物を受け取った。
「やっぱり、変わらないなぁ……」
ボソッと呟いたリンクさんの言葉に、どこか懐かしさと、胸を締め付けられるような感覚を受けた。
なんだ? これ、どこかで――。
「――さて、それじゃあ行きましょうか! 目指すはレルゲ古代遺跡! 目標はお宝の発掘です!」
何か思い出せそうだったのだが、リンクさんが突如テンションを上げて大声で話し始めたので、思考が途切れてしまった。
テンションの上がったリンクさんを見て、店主は俺の方を向き。
「コイツ……こういうやつなんだ。大変だと思うけど付き合ってやってほしい」
「わかりました」
「アルさん! ほら早く! 宝が僕たちを待ってますよ!!」
それ学者の言葉じゃなくて完璧にトレジャーハンターの言葉だろ。
俺はそう思って一度溜め息を吐くと、走り始めたリンクさんを追いかけ始めた。




