女性が生きやすい環境づくり ⑲
「……どうしてこんなことをするのかしら?」
私は調べてもらった情報を前に眉を顰めてしまう。だってあまりにも、理解が出来ない。
なんだろう、私は……過去の文献なども沢山読んでいて、そういう自分本位な考え方をしている人がいることは知っている。それでも私の周りには善意に満ちた人の方が多い。
……だからだろうか、こういう人を見ると理解が出来ないなと正直思ってしまう。
エンムントから聞いたその親方の男性は……調べれば調べるほど、沢山のことをしでかしている人だった。
王族や貴族相手にはへりくだっているようだ。敵に回したら問題である相手にはそういう態度をしているらしい。……私の知り合いの貴族も依頼をしたりしているというのも分かる。私は直接関わったことはないけれど、身近な人達が関わっていると思うと色々と心配になる。
もっと情報を集めて、どれだけの被害者が居るかというのを調べる必要がある。
その男性は女性関係に関して派手に動いている。エンムントが受けた被害のように恋人同士を引き裂くということは当然のようにやっているようだ。見目の良い女性を見ると自分の物にしたいと思ってしまうみたい。
……それにしてもエンムントの元恋人の女性は親方の男性が沢山の女性を囲っていることを知っているのかしら。
知っていて恋人であったエンムントを捨てたのか、それとも親方の男性にとっても自分は唯一だとそう思い違いをして捨てたのか。……飽きたらその後、酷い扱いをしている可能性があるという報告も受けているから早急に対応をする必要があるわ。
女性へのそう言う扱いだけでははぐらかされて罰するのが難しいけれど、彼に関して言えば不正な行いや同業者に対する横暴な真似も見られるようだ。圧力に屈して本来の実力を出せないといった方達も数多くいるようだ。
ただ親方の男性は実力はきちんとあるとの調べはついている。
鍛冶師としての実力があり、だからこそ王都内でも徐々に力をつけてきた。若い頃は真面目な性格で、それゆえに古株の鍛冶師たちに可愛がられていたようだ。その頃に貴族との伝手も手に入れたようでそれ以来の付き合いがあるらしい。その貴族は私も話したことはある。その貴族の方がどこまで事情を知っているかは分からない。
もし知っていた上で関わっているのならばどうするか決めなければならないわね。
それで貴族との伝手を得て、結果を出し続け今に至るようだけど――どこでその道をそれることになってしまったのかしら。
若い頃のまま……そのまま突き進めば、良い鍛冶師になったと思う。だけどそうならなかった。
「……誰かから信頼を受けたら、それを破ることは何かきっかけがなければありえない」
親方の男性も周りから信頼を受けていたはずだ。
――それをどこかのタイミングで、何かのきっかけで破ることになった。その結果が今の親方の男性の姿。
地位も、お金も、信頼も――それらの全てを手に入れた成功者。
親方の男性は特にそう言った問題行動を起こさなくても満たされるだけの成功をしている。……だけどもしかしたら成功したからこそそんな風に変わってしまったのだろうか。
本を読んでいてそういう行いをしてしまった人というのを見てきた。親方の男性もそういう道をたどったのだろう。
それに情報を見た限り、親方の男性はこの状況を楽しんでいるようだ。やっぱり私には理解が出来ない。
だけど理解が出来ないからこそ、なぜこんなことを行っているのかも含めて知っておくべきだろう。
――理解出来ない考えを持つ人たちの考え方を知ることが出来れば、今後、色んな人たちと関わる中で役には立つだろう。
親方の男性の行いには嫌な気持ちにはなるが、そういう出会ったことない人の思考を理解出来る機会というのは嬉しいとは思う。
こういう風な機会でないと、そういう人たちと関わることなどまずないものね。
思考をまとめ上げて、この後のことを考えて――どうするのが一番良いかというのを組み立てていく。
出来る限り早急に片付けた方がいい。そして酷い目に遭っている人たちの未来をどうするか。
花びら達や護衛騎士たち、魔術師や文官たち。
私が交流を持っていて、私のために動いてくれたりする人たち。
私は彼らに対して指示を出すことにする。
親方の男性は逃げようとするだろう。自分の行ってきたことを隠し――自分の身可愛さに、私を排除しようとさえするかもしれない。
私が『知識の花』と呼ばれている立場であろうとも、王弟であるカウディオと結婚していても――それでも追い詰められた人間というのは何をしだすのか分からない。
だからそれが起こりうることがあるのならば……、覚悟はすべき。
ラウレータが危険な目に遭わないようにしなければならないわね。まず彼側が私のところまでたどり着く前にどうにかするのが一番いいけれど。
直接こちらに危害を加えようとするのならば、その時はそれ相応の対応をしなければならない。
そんなことを考えながら、指示を終えて私はその日は別の仕事に精を出し、翌日を迎える。翌日には事態はまた動いていた。




