女性が生きやすい環境づくり ⑭
「相談窓口は何処に作る予定ですか?」
「そうね。一応、候補地としていくつかの場所を商会から勧められているわ。その中でどこがいいと思うか、意見を出してもらえるかしら?」
既に相談窓口を作ることは決まっていることだ。
陛下たちにもやってみればいいと言われているので、一先ずやってみようと思っているの。
場所は人気が多いエリアにするか、それとも自分の悩み相談をするには誰にもばれないように来たいと思っている人向けに目立たない場所につくるか。
そのあたりも悩みどころよね。
その相談主の性格などにもよりそうだもの。あとは入りやすいようにするべきよね。
どんなに些細なことでも相談が出来るようにすべきだと思っているわ。
その場にいる人達の意見は様々だった。それこそ周りに周知するためにも最も目立つ場所に窓口を作るべきという意見も当然ある。そう、まずこの事業を進めるにあたってはその仕組み自体を広めていくことが必要だ。とはいえ、早急に進めたとしても本当に来てほしい相手が来ないという状況だとそれはそれで困るのだ。
何処からどう進めるのが一番の最善かというのは、正直言って考えるのが難しい。
あとは女性陣の意見は知る人ぞ知る形にした方がいいのではないかとか、そういう意見も多かった。本当に些細な喧嘩の仲裁とか、子供の教育に関する悩みとか、そういう何気ないことも出来るような形の方がきっといい。
自分がそういう悩みを持っていると知られないようにした方がいい人もきっと沢山いる。だからこそ直接赴くではなく、意見箱のような場所を作るというのも話し合いの中で出た。やっぱり自分の口で話に行くとなると中々一歩踏み出せない人もいそうだものね。
王都内だと文字を読める人ばかりだけど、田舎になるとそうでもないからそのあたりも重要よね。
まぁ、都会と田舎だとやり方をまた変えなければならない。そういう意見箱のようなものを作るにしても、簡潔で分かりやすいように村のような場所だとした方がいいわね。
「一旦、場所はこちらにしましょう」
結局多数決で、一つの場所が決まった。
この後状況次第ではまた増やしつつ、考えていく。そのあたりは柔軟に考えていくしかないだろう。
まずその相談窓口を作る場所は、一旦王都でも人気の多い通りに作ることになった。別途、意見箱は数か所に設置する。場所は変な悪戯などをされないようにと、きちんと守秘義務が守られるように騎士などの警備の目があるところに設置することにはする。
何かしら働きたいとか、これから何か新しいことをはじめたいとか、勉強をしたいとか――そういう細かい所からでも背中を押せればいい。
「クレヴァーナ様の名を冠して進めるのならば人は集まるとは思います」
「そうですね。クレヴァーナ様はこの国で素晴らしい成果を出していますからね。ただこういう相談窓口にクレヴァーナ様にこれ以上功績を残させないためにと嫌がらせをする方も出てくるかもしれません。あとは冷やかしも」
花びら達の中には私のことを心配しているみたい。……私がこうやって次々と色んなことを変えていこうとしているのを嫌がっている者達は確かに居る。保守的な考えを持つ人からしてみると、新しい何かを作っていこうとするのは望まれていないだろう。
私がこの国で『知識の花』として活躍できるのはあくまで陛下がそういう働きを許容している方だからというのもある。本当にそれは有難いことだと思う。
正直、今回の女性が働きやすい環境づくりも反発するような人はいるだろう。私のやることを周りの人達すべてが認めてくれるわけでは決してない。
「そうね。今回も妨害はあると思うけれど、そのあたりは一つ一つ対策しましょう。事前にはじけるものははじいていくとして、後から新たな問題が起こった際の手筈も先に考えておいた方がいいわね」
正直言って、私の行いを妨害されることは『知識の花』として動いていてこれまでも何回もあった。
あとは私の行ったことを自分の行いとしてかすめ取ってしまおうなどという人もいる。
世の中、良い人は多いけれどそういう考えの人もいる。だからそういう人達に遭遇した時のことをきちんと考えておかなければならない。
意図的に悪意を持って、何かを起こそうとする人は少なからずいるのだから。
「相談窓口の職員は、私が信頼の出来る方にお願いしているわ。陛下からも許可を得て文官をお借りしているわ。軌道に乗ってきたら改めて職員を雇う形にしようと思っているの。あとはそうね。寄付金を集めることと、働きたい女性向けに職場を提供することも事業として進めていくのも将来的な視野に入れておきたいわ。今は私やこの場に居る皆のお金で準備は出来るけれど……私たちの手を離れても回るようにしておいた方がいいもの」
例えばの話、私達の手を離れれば消えてしまうような仕組みならば意味がないのだ。やらなければならないのは継続的に続けていけるように仕組みを作ること。
それでいて私が居なくても問題に対処が出来るようにしておかなければならない。
そういう話し合いを私たちは長時間にわたって続けた。
……ラウレータは、飽きた様子一つみせずにじっと話を聞いていた。
「お母様はやっぱり凄い」
そう言ってにこにこ笑うラウレータは、全く退屈しなかったようだ。
会議が終わった後、王城の一室を借りて家族三人でのんびりとお茶をした。
ラウレータは会議の中で疑問に思ったことなどを沢山質問する。本当に話の内容を理解して聞いていたんだなと思うと、ラウレータはやっぱり凄い子だなとそう思った。




