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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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ラウレータの世界 ①

ラウレータの話です

「ラウレータ」



 お母様が、私の名を呼ぶ。

 私はお母様の優しい声が大好き。

 お母様が迎えに来てくれて、お母様と一緒に暮らしている。



 此処に来てからの、お母様のことを見るのが私は好き。





 だって……公爵家にいた頃のお母様は、今のように笑顔じゃなかった。




 物心ついたころから、お母様はずっと屋敷の中に居た。小さかった私にとってお母様と過ごせる時間が多ければ多いほど嬉しかった。……でもずっとお母様と一緒だったわけじゃない。

 お母様は屋敷の中にはいたけれど、皆、どうしてかお母様に関わらないようにしていた。




 お母様が私の所に来た後に、お母様のことを周りは悪く言ったりしていた。私はお母様が好きだった。だから、周りがどうしてお母様のことが嫌いなのか分からなかった。




 お父様にとっても、その周りにとっても――お母様は“悪い人”だった。私はお母様がどうしてそう言われるか分からなかった。私が「お母様は優しいから、大好き」と周りに伝えても……皆、本気にはしていなかった。

 小さくても、まだ子供でも……私はそれが分かっていた。



 お父様は忙しくて、中々屋敷には帰ってこなかった。周りの侍女は「奥様が公爵夫人としての責務を全う出来ないため、公爵様が社交も忙しくされているのです」などと言っていた。

 まるでお母様のせいで、お父様が大変みたいな言い方は嫌だった。

 ……お父様のことは、嫌いじゃない。忙しいからと時々しか会わなかったし、お母様のことを周りの皆と一緒で遠ざけていたけれど、私には優しかったから。




 お母様とお父様が仲良くしたらいいのに……と思ったけれど、お父様にとって私やお母様の言葉よりも周りのお兄さんたちの言うことの方が大切だったみたいだ。お父様の側近だという男の人たちは私にはそれなりによくしてくれていた。でもお母様のことが嫌いだからか、お母様の娘である私に対しても嫌だなという気持ちはあったのかなと思う。





 ……私が見ているお母様は、優しくて、色んなことを知っている人だった。お母様は本を読むことが好きみたいで、読んだ本の話をしてくれた。お母様は昔に読んだ本の内容を覚えていて、それを語ってくれた。私は一度読んだ本の内容を覚えておくなんて出来ないから、お母様は凄いなと思った。

 大人になったら皆、お母様のようになんでも知っているんだとその時は思っていた。




 お母様は私の知らない言葉も沢山知っていた。私はお母様と過ごしている間に、簡単な言葉は喋れるようになっていた。




 お母様は魔術を使うことは出来なかったけれど、魔術について詳しかった。

 私の知らない魔術のことを、お母様はよく知っていた。それに私が魔術を使えると、お母様はほっとした様子だった。もし……自分のように魔術を使えなかったらと心配していたみたいだった。




 お母様が嫌われていたのは魔術が使えないことも理由だったらしい。お母様の家族……お母様の両親だったり、姉や弟だったりする人たち……魔術の使える私には笑いかけていたし、色々くれた。でも皆、お母様に冷たい。魔術が使えないからと言って、お母様を嫌っているのもよく分からなかった。

 だって王族や貴族以外だと、魔術なんて使わずに暮らしている人が多いって聞いた。私は魔力量が多い方で、それでいてお母様が教えてくれるのもあって魔術を使えたけれど……、私が魔術を使えなかったらお爺様たちは私のことをこんなに可愛がらないだろうなというのは子供ながらに感じていた。



 ……私が何か出来なかった姿をお爺様達の傍で見せた時、お母様の方が怒られていた。それも嫌だった。なんでお母様のことを怒るんだろうって分からなかった。



 おばあ様は「魔術を使えないあの子より、貴方の方がずっと偉いのよ」なんて言っていた。でも私はそうだとは思わなかった。

 だって私の知っているお母様は、凄かったから。




 少なくともお母様のことを悪く言う人たちの嫌な顔よりも、笑っているお母様の顔を見る方が好きだった。

 表立ってお母様のことを悪く言うのはお爺様達だけだったけれど、他の人たちもお母様と距離を置いているのはなんとなく分かっていた。



 ……私は一緒に過ごしている時以外のお母様がどう過ごしているかとか分からなかった。お母様に聞いても本を読んでいたとか、そういうことを言うだけだった。お母様は私の前でいつも笑っていた。




 もっと、私が大人になれば……お母様の良さを周りに知ってもらえることが出来るかな? お母様がもっと笑ってくれるように私が何か出来るようになれるかな?

 私はずっと、そればかり考えていた。




 周りは私のことを魔術を使えて、礼儀正しいとか沢山褒めてくれる。でもお母様のおかげでもあるのに、皆、お母様の凄さに全然気づかない。

 なんでか分からないけれど、お母様の凄さを皆理解してなかった。特にお爺様達はお母様のことを人より劣る人と思っているようだった。そんなことないのに。




 それに私が魔術式について聞いた時、お爺様達は分かっていなかったもん。お母様は私が聞いたら、分かりやすく解説してくれたのに。




 お母様は一度の説明で私が分からないって言うと、分かりやすい言葉で教えてくれるの。

 私にはそのうち家庭教師がつくって聞いているけれど、お母様が居ればいいのになって思った。




 お母様って先生とかが似合いそうだと思う。

 お母様は誰かの先生とかしないのかな。

 そんな風に考えながら、私は早く大人になりたいなと思った。





 ……そんな中で、お母様が屋敷からいなくなったと聞いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ラウレータが周りに毒される事なく優しい子供でいた事が、ラウレータの本質なんでしょうね… 泣いちゃいました。 子供は敏いです。でもその敏さでどの様な性格になるかは子供次第。 ラウレータが…
[一言] マジで彼女の故国、彼女に知識と技術の支援を貰う資格が無いですよねー。。こんな事を思わせてるんだし
[一言] ラウレータ視点待ってた! 花びらじゃなく、大輪を咲かせそう
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