王弟の愛する知識の花 ④
王妃様は何か言いたそうにしていたが、陛下に睨まれてそれ以上何かは言わなかった。
おそらく私に思う所は色々あるのだろうなとは思う。
それでも私の影響力が強くなりすぎてしまっているから、これ以上何も言えないのかもしれない。
「また我が国の貴族令嬢が貴方の噂を意図的に流したことは申し訳なかった。社交界の場などでも貴方の噂を流し続け、その結果、面白おかしく情報が広まってしまった。どうやらあの者は……王弟殿下から注意を受けていたにも関わらず、裏で夫人のことを広めていたようだ。伯爵はそのことを重く見て、彼女を辺境へと送ることにしたとのことだ」
「そうですか」
「ああ。令嬢がスラファー国の『知識の花』に対する無礼を行っていることで、伯爵の立場も悪くなっている。……それは我が国全体に言えることだが。夫人の活躍に救われた者たちは数が多いのだ。だから、夫人が我が国を許すと発言してくれたことは助かっている」
私の活躍により、この国の人々は他国から冷たい目を向けられているのは想像は出来ていた。私が周りに認められれば認められるほど、そういう傾向にある。それでこの国も苦労をしているのではないかと思う。
外交の際に私の名を聞くことも多くなっているだろうから。
そう考えると私は……本当に今なら、なんだって出来るのだろうなと思った。ちょっとくらい無茶なことでもきっと交渉が出来る。だってこの国は……私に無理強いは出来ない。仮にこの国を訪れた私に何かあれば、周りが黙っていないから。
私の立場はそれだけ確立されている。
そういう立場に自分がなっていることも、なんだか不思議。
「陛下、そのような我が国を捨てた者に――」
「王妃よ……。何も分かっておらぬな? 『知識の花』に反旗を翻されれば、我が国はひとたまりもない。下がるが良い」
陛下はそう言って、王妃様を下がらせることにしたようだ。騒いでいた王妃様は騎士達に連れられてその場を退場していった。
ひとたまりもないなどと言われたけれど、そこまでの力が私にあるのだろうか? 自分で考えてみる。私は今、王弟であるカウディオの妻で、国内外で新しい制度を試したりとか、外交で活躍したりとか……様々なことを行ってきた。
私は私の生徒たちや、スラファー国や他国の要人たちと沢山交流を持ってきた。おそらく、私に何かあれば皆、動き出すのだろうとは思う。スラファー国としても、私に何かあるのは望むところではない。
ああ、確かに……私はやろうと思えば陛下が言っているようなことが出来るかもしれない。
ただ理由もなしにそんなことを行えば、私の評判もまた変わるだろう。だから仮に、ロージュン国と何かあったとしても……考えて、周りに相談しながら行動は起こそうとは思う。
世界が広がれば、それだけ周りへの影響力も増していくのだと改めて実感する。
私の知識と、影響力はこの国にとっても見逃せないものになっているのだ。
「そういえば……シンフォイガ公爵家とは関わる気はないと聞いている。あ奴らは関わりたがっているようだが、王命で命じているから安心してくれていい」
「ありがとうございます」
カウディオは私が主導で会話を交わしているのを許してくれている。私が何かしら問題のある言動をしていたら止めてくれるとは思う。
それからしばらくの間、世間話をした。
「王弟殿下は本当に素晴らしい夫人をお持ちだな」
カウディオにもそんな話が振られる。
「私にとっては自慢の妻です。これからも私の隣で咲き誇って欲しいとそう願ってます」
カウディオがそう言って笑ってくれて、私にとってもカウディオは自慢の夫だなとそう思った。
目を合わせて、笑い合う。
それだけで本当に幸せな気持ちでいっぱいになった。
そうして話していると――、
「ウェグセンダ公爵がお越しになりました」
一人の文官がそのことを伝えてきた。
私の娘も、これから此処にやってくる。ラウレータは今、どんなふうに成長しているだろうか。それを考えただけで、なんとも落ち着かない。
……元夫のこととか、その再婚相手のこととか、あんまり頭を占めていない。私は薄情なのかもしれない。
でも正直言って、私にとっては娘のことが第一なのだ。
この国で、私に笑いかけてくれた娘。私のことを「お母様」と笑顔で呼んでくれていた娘。
どこか私は、興奮している。
だって、娘に久しぶりに会えるから。もしかしたら二年ぶりだからラウレータは私を覚えていないかもしれない。でもそれでもいい。
こうしてまた娘に会えるだけで、私は嬉しいのだから。
娘とこれから一緒に暮らせなかったとしても……それでも交流を持つことは許してもらえるだろうか? 娘はどういう選択をするだろうか。




