ランクアップするために・8
「じゃあお前たちの子のことは安心して任せておけ。お前たちは人を襲ったわけじゃない。だが、それも時間の問題だと思って討伐の依頼を受けた。受けたからには果たす必要がある。分かるな」
ミッツェルカが大型の狼に声を掛けると、低く唸るように返事をした。やはり理解しているのだろう。
「大型は一匹だけだ。その上賢いから、その大型を一緒に連れ帰ってもいいとは思う。ギルドマスターの判断に任せていいだろうな」
オーリーが助言をする。これくらいならば判定に影響は無い、という判断だった。聞いたミッツェルカは剣の刃曇りを落としてから鞘にしまい、来るか、と問えばまた一鳴きする。
大型の狼一匹と小型の狼五匹を連れて行くことをミッツェルカは決めた。
それを見た残り四人のうち、クラン以外は依頼のあった薬草採集を始めた。もう、獣討伐は終わったと判断したから。ギルドの依頼書を確認しながら薬草の本数を確かめて、少し多めに採集して、依頼を終えた。後はギルドに戻って依頼達成、と言われれば、ランクアップしてもらえることになる。
「薬草を獲り尽くすことはしないのか」
オーリーがミハイルに確認する。
ミハイルはその意味を理解出来ない、というように首を傾げながら答えた。
「獲り尽くしても、次の日には同じ量が出来るのなら兎も角、そんなことは無いでしょうから。この地で暮らす皆さんが必要になるかもしれないのに、獲り尽くすことなど出来ません。それに獲り尽くすことによって、この薬草が生えにくくなるかもしれないし、他の植物が生えて、この薬草が負けてしまうこともあるかもしれない。バランスが崩れると、それは他の動植物にも影響する可能性があるので」
オーリーはなるほど、と頷いてから不意に言う。
「少なくとも平民出身ではないな。平民ではそこまでの知識は無い。だから思いつかない。それを教えるのもギルド職員の務めだが、その必要が無い程度の教育を受けてきているわけだな」
質問の意図を説明されて、ミハイルはやらかしたなぁ、と頭を抱えた。
「詮索しているわけじゃない。そういう考えが無く、獲り尽くしてしまう冒険者が居るからこそ、教えているだけだ。きちんと理解していて良かったよ」
オーリーはそれ以上聞かない、と言っている、と判断してミハイルは頷いた。その後、ギルドに戻ったオーリーと皆は受付にて依頼達成と、オーリーが職員としてランクアップ試験合格を通達し、五人は晴れてランクアップした。
「ところで少し時間あるか」
ランクアップに喜ぶ五人にオーリーは声をかける。狼の件は既に報告し、受付からギルドマスターへの報告をしてもらい、その返事待ちなので、ミハイルがオーリーに頷く。
オーリーは受付の職員に何かを伝え、受付の職員は不思議そうな顔をしながらも了承したように頷き、それから少しして、オーリーがミハイルだけを呼び寄せた。
「一つ一つ慎重にランクアップしていくのは分かる。その判断は正しいが、実力がある、と判断したから、もう二つ上のランクアップをしてみないか?」
これをミハイルに伝えるのは、彼がリーダーだからである。その判断をするのは、リーダーにしか出来ないからだ。
「そのお誘いは有り難いし嬉しいですが、慎重に一つ一つ上げていく方が、下手に注目されないと思うのですが。注目されるというのは、尊敬や羨望だけでなく嫉妬や逆恨みも買い易いので」
ミハイルは、そのように申し出を断る。
「うん。やはり君はリーダーの素質がある。きちんとメンバーの実力を把握しているし、それだからさらに上を目指せ、と言われて、それは無理だと言わない。メンバーの実力を把握しているから更なるランクアップも突破出来る、と理解している。だが、こういった話をされて有頂天になって調子良く、試験受けます、などと安易に返事をしない。寧ろ、ランクアップ試験に合格することを前提として、簡単にランクアップしてしまえば注目を浴びることを懸念している。懸念事項もきちんと理解している。そういった冷静な判断がリーダーには必要不可欠だから、君は素質がある」
ここまで褒められて、ミハイルとて悪い気はしない。調子に乗ることもないが。
「ありがとうございます」
「だからこそ、更に上を目指すべきだ。君たちの事情は知らないが、あの実力ではランクが合っていない。どのみち目立つ。そして、下手にランクが低いと余計な問題を起こしやすい。それよりも、同じ目立つならそれなりのランクに到達し、下手に絡まれない方がお薦めだ。ついでに、私も君たちのような冒険者が高ランクに居てくれれば、ギルドから招集されるような大きな案件の時に助かる。顔見知りが多く実力がある者が一人でも多い方が、楽になるからな。考えてみてくれ」
随分と買い被られているような気がするな、とミハイルは思うが、低ランクで少しずつ様子を見ながらランクアップするより、一気にそれなりのランクに到達する方が、トラブルに巻き込まれることが少なくなるというのなら、更なるランクアップ試験を受けてもいいかもしれないな、とミハイルは決断。
「分かりました。ランクアップ試験受けます」
一つずつではなく、二つ上のランクアップ試験を受けることを了承した。
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